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モザイク仕立ての果実 20

「あ……ぅ……ぼ、僕の、勘違いかも  」  喜多が二分で勃てて発射できるテクニックを持っているのなら別だけれど、たぶん……そんなことはできないだろうし、二分ではこんな状態になるほど触れるはずがない。 「ぐ ぬぬ……ご、ごめんなさい」  食いしばるようにして言うと、喜多ははは と軽く笑い飛ばす。 「巳波ちゃんはそれくらい用心できてるんだね、すごく偉いよ! 世の中慎重に慎重にして悪いことはないもんね」 「ま、まぁ。昔から気をつけなさいって言われてたし」 「お母さまの教えなんだね、巳波ちゃんのことを大事に思っている言葉だね」  にこにこと笑いながら言われて、僕は母のことを褒められた嬉しさと喜多に謝罪しなければならなかった悔しさでごった返した感情のままに、こくりと頷いた。  もう蛍の光が聞こえてきそうな時間帯に、いたたまれなくなってそろりと店舗前面のガラスを見る。  その向こうは真っ暗で、僕だけでなく不動産屋の社員もそろそろ切り上げたがっているようだった。  せめて内見できる物件だけでも見つけておきたかったけれど、夕方から訪れたのとΩだってこと……それから、収入の面で条件に合う物件はなかなか見つからなかった。  最初の会社に勤め続けてられていたらもうちょっと違ったかもしれなかったけれど、喜多から逃げるために辞めてしまって今はアルバイト生活だ。そのアルバイトもシェルターを追い出されたごたごたで行かなくなって、多分もうクビになってる。 「困ったな……」  Ωが入れる物件がここまで少ないとは思わなかった。  前回住んでいたところはシェルターからの紹介だったから素直に入れてたんだなって思う。 「他にありませんか?」 「申し訳ありません、どうしてもオメガの方に入っていただく建物は細かな基準が設けられておりまして……その分、費用も高くなりますし、数が多くないんです」  僕の言葉に、不動産屋の店員さんは困り顔だ。  自分が困らせているんだってわかってしまうと、もうこれ以上もっと物件を見せてくださいとは言えなかった。 「年度の変わり目などに、少し出たりもするんですけどね」 「そうですか……」  瀬能がくれた名刺を拾いに行くべきか悩み始めたところで、隣に座って話を聞いていた喜多が「それなら」って喋り出す。 「巳波ちゃんがよかったら、いい物件が見つかるまでうちに泊まればいいよ。ココアもちはこのまま友人のところに預かってもらうから、ね?」 「ねって、言われても……喜多さんアルファなのに」

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