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モザイク仕立ての果実 23

 Ωを虜にするくらいなんだから、そうなのかもしれない。 「  んー……」  そう考えてしまうと、手の中の喜多のワイシャツがいい匂いとは思えなくなってくる。  この数日である程度見直しはしたけれど、それでも喜多がαであることには変わりないし、こっちが隙を見せると襲いかかってくるかもしれない。  けれど……すんすん と自然と鼻が鳴る。  鼻の奥にあるフェロモンを感じとる部位を使う時にする特有の行動だって聞いたことがあった。  普段特に気にかけてする行動ってわけではないけれど、どうしてだか今はしたくてたまらない。すん と吸い込むごとに鼻の奥に広がる心地よい匂いに、くらりと目が回るような心地になる。  絡みつくような、濃密な深い森の匂いをしたそれは鼻から入って肺を撫で上げるように刺激していって…… 「ふ、ぁ」  深く吸い込んで、肺に匂いを溜めるようにするとクラクラと酩酊したような感覚がして、痺れるような浮遊感が脳を揺さぶった。  くらりと脳が揺れる動きに合わせて洗濯機にもたれかかると、太ももにひやりと冷たい感触がする。  熱を奪い取っていくから冷静になれるはずなのに、どうしてだか体の奥からくつりくつりと茹であがったような血が流れ込む。  はぁ と吐息を吐き出してしまいたくなるような熱が皮膚の下で蠢いて、体すべてを犯すように染み込んでいく。 「……も、一回だけ」  他人の服の匂いを嗅ぐなんて変態チックなことをして、罪悪感がないわけではなかったけれど……喜多のフェロモンが内面を侵略していくのが妙に気持ちいい。   手の中のワイシャツを軽く動かして、匂いが濃くなる部分を見つけるとそこで再び深く息を吸い込む。  ジリジリと焦れるような、それでいて気持ちのいい箇所を的確に撫であげていくような…… 「ぁ、ん゛! ひぁ……これぇっ」  不意にお尻が痙攣するようにひくひくと動き出す。  それが喜多の服に残されていたフェロモンで引き起こされたことだってわかっているのに、手はワイシャツから離れようとはしない。  すす と洗濯機の角に股間を擦りつけると、ひんやりとした感覚が僕の下品な動きに合わせて上下にゆっくりと移動する。  角の部分でこりこりとこねくるようにしてやると、体を起こしていることが難しくて洗濯機の上に上半身を預けるしかなくなってしまう。  そうすると、今度は胸の尖りが爪ささに触れて…… 「んぁっ!」  爪の先よりも小さな粒がびりびりと痺れを放つ。  心地よい。  気持ちいい。  脳味噌がトロトロになってこねくり回されているような錯覚に、カクカクと腰が動いてもっともっと高みのある気持ちよさに身をゆだねようとした瞬間、   「ただいまー!」  ガチャン と玄関の扉が開く音に思わず飛び上がった。

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