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モザイク仕立ての果実 25
「あんなちょろくていいの?」
自分の言葉ひとつひとつに一喜一憂する姿に、αってもしやちょろいのか? って気分になってくる。
「いや……そんなことない、よな。だから、父さんたちだって……」
父と祖父の罵詈雑言が耳の奥に蘇る気がして、さっと耳を塞いでうずくまった。
湿っていた下着が気持ち悪いとかいろいろあったけれど、それを全部無視してしまえるほどには……立ち上がれなくて……
耳の中でこだまする父と祖父の声、それに重なるようにいつもどのタイミングでもしつけのされていないような犬の泣き声が響き渡る。
いや、実際にはあの犬はしっかりとしつけられていて、父や祖父に絶対服従で二人が合図を送るだけで僕を引き倒して耳元でわんわんと吠えたてた。
それは、父たちが止めるまで続くΩの躾だった。
人間の物とは違う生臭い唾液の絡んだ口が項でカパリと開くと、そこには硬質な物体でできた汚れた象牙色の牙が並んで……
「 っ」
どんどん血の気が引いていくのがわかって、うずくまるだけじゃ体を支えきれなくなって頭をごとんと床に落とす。
『謝る時はきちんと額をつけるように』
そんなふうに言いながら僕を砂利の上に押さえつけて謝罪させたのは父だ。
申し訳ございませんと繰り返す僕を竹で打ち据え続けたのは祖父で。
血まみれのせいで興奮した犬が土下座した僕の背に馬乗りになって……
「ぅ゛……っ う゛……っ」
胸が自分の意思とは関係なく波打つように動く。
胃が絞られたからか腹がべこんとへこんで口の中にすっぱいものがせり上がってくる。
鼻が痛くて泣きそうで、でも……さすがに人様の家のリビングで吐くなんて無作法はできない!
「ぅ、え゛……」
血の気が無くなって冷たいのに体中汗だくだった。
そんな状態でずる とはいずるようにトイレに向かうけれど……ダメだった。
「 ────巳波ちゃんっ!」
いつもの音の比じゃないくらいのけたたましさで玄関が開き、喜多が靴を脱ぐのももどかしく飛び込んでくる。
僕は結局トイレに行くまでにダウンしてしまっていた、えずき続ける僕を抱き上げて喜多はトイレへと駆け込む。
清潔にされているトイレはひざまずくのに抵抗はなくて、僕は抱えるようにして胃の中を空っぽにする。
今朝、喜多が作ってくれた美味しい生ハムのサンドイッチの残骸が流れていくのをぼんやりと見ながら、なんともいえない味のする口から「ありがとう」って絞り出した。
トイレまで待てなかった吐しゃ物が、喜多の服にかかって……よく似合うなって見てたブラウンカラーのシャツをダメにしてしまっているのに気づいた。
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