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モザイク仕立ての果実 26
「大丈夫? 口をゆすげるようにお水持ってくるね」
僕の視線をどう取ったのかは知らないけど、喜多はぴんと来た様子で立ち上がるとコップに入れた水を渡してくれる。
その小さな気遣いに、僕はいたたまれなくなってしまった。
「…………やっぱタイミングいいな……盗撮してる?」
つい出た言葉は今言わなくてもいい言葉だ。
自分を助けて、服にゲロをかけられたのにまだ面倒をみようとしている喜多にいう言葉じゃないってことだけははっきりとわかる。
「違うよ! 仕事用の鞄に財布入れたままでたまたま取りにきたんだよ。忘れ物してよかったーって思えることってあるんだね」
締まらない笑顔を見せ、そこでやっと喜多は自分が汚れていることに気づいたようだった。
「わっ! 巳波ちゃん、臭かったでしょ。すぐに片づけるからね!」
そう言うと喜多は風呂場の方に飛び込んでいく。
「あ! 巳波ちゃんの汚れ物も一緒に下洗いするからこっちにもらってもいい?」
「な、な……なんであんたがするんだよ」
汚れ仕事は、Ωの仕事だ。
「え……? できるから? 吐いて具合の悪い巳波ちゃんにさせるわけにはいかないし……って、そうだ! ごめん! 先に巳波ちゃんを休めてあげなきゃだよね」
喜多はさっと下着以外の服を風呂場で脱ぎ捨てると、バタバタと寝室に行って僕の寝間着を持ち出してくる。
「一人で着替えられる? 目隠しして手伝おうか?」
「…………」
「変なことしないように手錠も使おうか?」
「そんなにしたら、手伝いの意味ないだろ」
つんと言い返したら、なんだか喜多は嬉しそうだった。
ぴと と濡れた肌が触れあって、僕が飛び上がらなきゃなのに喜多が「きゃー」と叫んで飛び上がった。
広い風呂だけれど、それでも大人二人が入ればきつく感じる。
ましてや端によけているとはいえ足元には洗濯しなきゃならない二人分の服があるから、それを避けようとすると余計に狭く感じた。
服を脱がす云々のやり取りの後、タオルで拭いてもすっきりしなかったからシャワーを浴びたいって言いだした僕に、喜多は吐いたのに一人で風呂に入るのは危ないって言い出して一歩も引かなかった。
しかたなく譲歩して譲歩して……喜多は目隠しをして僕がいつ倒れてもいいように構えている状態だ。
なんだかできの悪いコントを観ているような気分になりながら、手早く吐いて汚れた部分を洗い流す。
「ほら、もう洗い終わった! 全然大丈夫なのに大げさ!」
ツンと言って脇を通り抜けようとしたけれど、アリクイの威嚇のような体勢の喜多は動かない。
「ちょっと、のいてよ。出られないよ」
「あ、あ、あ……ちょ、ちょっと待ってね、待っててねっすぐに避けるっ……避けるから……」
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