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モザイク仕立ての果実 28

「花言葉で伝えたい なんて、ちょっとキザったらしいかな……」  花束を受け取りながらぽつんと言う僕に、お店の人は素敵ですよって笑って言ってくれた。  そうすると、心がふわふわになった。  いまから研究所に行って堅苦しい面会手続きをして、プレゼントは職員のチェックが入る なんて嫌な目に遭わなきゃいけないのに、ちょっと背中を押してもらえた気分だった。 「やっぱ雪虫は凄いなぁ! 傍に居なくても僕を幸せにしてくれるんだから!」  ポケットから取り出した携帯電話の中から、こっそりと盗み撮りした雪虫の写真を見つけてにっこり笑った。  視線は合ってないし、横顔だからちゃんと撮れてないんだけれど、研究所内は一切の写真撮影が禁止されているところだから、盗撮だとこれが精いっぱい。  もしばれたらシェルター追い出されるだろうし。    それくらい、あそこの規則は厳しい。  それが中にいるΩ達を守るためだとしても、ぎゅうぎゅうに締め付けられてしまうと、違反したくなるのが人間ってものだ。 「  さて、これを母さん経由で雪虫に渡してもらったらいいんだよな!」  直接渡せないのは残念だけれど、それでも僕の想像の中ではこの雪虫をイメージして作った花束を抱えて、雪虫が嬉しそうに微笑んでくれるシーンが繰り返されている。  それを思うだけで、浮足立ってしまう。   「 ────ぅげっ」  るんるんと研究所の門をくぐった瞬間、目の前の男につい変な声を上げてしまった。 「うげって……なんだよ」  むつーとした表情は明らかに僕に対して嫌悪感を見せている。  なんて言ったっけ? しずく? しずる? とかなんとか? すっかり忘れてた存在だったのに、今更目の前に現れないで欲しい。  僕に背を向けないように、カニみたいにずりずりと横に歩いて行く姿は、なんだか見ていて面白くなかった。 「そんなにするならココ通らなければいいのに!」 「通るよ! だって雪虫は今日からヒ……」  しずるは「ひっひっひっ」って変な笑い声を出した後に押し黙ってしまった。  やっぱちょっとαってどこかおかしい奴が多いんだなって感じて、あんま近づきたくないから僕もしずるを見据えながらカニのように横向きにじりじりと足を出す。  受付までまだ遠いけど、視線を先に外すとなんだか負けたような気分になるからじっと睨み合ったままだった。   「きょ 今日……面会?」  にらめっこに耐えられなかったのは向こうも同じだったみたいで、なんとか絞り出すように質問を投げかけてきた。   「なんであんたに教えなきゃなのさ」 「……」

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