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モザイク仕立ての果実 29

 つんと返すと、しずるは別に聞きたかったわけじゃない みたいな顔をしてくる。  それがまた腹らだたしいから、 「雪虫に会いに来たんだよ! ほらお土産持って!」 「は?」 「やっぱ親友の僕に会いたいだろうなって  「そんなわけないだろ」  低く返された言葉に思わず声が出なくなった。  喉を通っていく音だけが、ひゅう と微かな振動を起こす。 「…………そんな状態の人間に雪虫は会いたがらない」 「な、な、な……なんだよ? そんな状態って! 僕は何もないし! 会いたがらないなんてことない! そんなことない! ほら! この花束だって雪虫のイメージで「アネモネには毒がある」  ピシャンと言われて、僕は呆然と手の中の青と白のアネモネの花を見る。  毒?  そこらで摘んできた草ならともかく、これはきちんとした花屋で買ったものなんだからそんな危険なものを売るはずがないのに、何言ってんだ? こいつ。 「アネモネは全草に刺激性精油成分を含んでいて有毒。植物中に配糖体ラヌンクリンが存在してて、加水分解で有毒成分のプロトアネモニンができあがるんだよ。分子式はC5H4O2な」 「……は? ヌ……プロト」  突然訳の分かんない言葉をまくし立てられて僕はあわあわとするしかない。 「雪虫は体が弱いんだ」 「し、知ってるよ!」 「じゃあそれに雪虫が触れたらどうなるかもわかってるんだろ」 「え……」    睨んでくる視線の重さに心の中の何かがへし折られたような気がして、まっすぐ向けていた視線が地べたを這う。 「その花に触ったら、雪虫の肌がかぶれて水疱ができて、熱も出て……うまく傷が治ってくれたらいいけど、どんどん皮膚がぐずぐずになったら穴が開いて骨が出てくる」  僕に向けてはっきりした口調で語られるソレは、淡々とした語り口のせいか想像力を掻き立てた。  華奢で可愛らしくて、日の光の下では儚く消えてしまうんじゃないかって思っちゃう存在を、あっさりと重症人にしてしまう。  弱弱しく病床から僕を見上げて微笑むことも苦しい雪虫の姿。   「そ、そんなの    じゃあ、これはやめて、何かアクセサリーにするよ「雪虫は金属にアレルギーがある」  僕の妥協を叩き潰すような声は、さっきよりも硬い。  思わずぶるりと身震いする。 「……ケーキ、に、する  「雪虫は添加物を受け付けない、倒れて熱を出す」 そんなの知らないよっ‼」  僕のセリフに被せるように、しずるは次々と難癖をつけてくる。 「お前、本当に雪虫のしん……いや、友人なのか?」  親友なんかじゃないって言われて、僕の顔が熱くなって……

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