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モザイク仕立ての果実 30

「ほ、本当に雪虫の親友だ!」 「じゃあなんで雪虫のこと、なんも知らないんだよ」 「────っ」  知らないことない。  外国人かと思うけど実はこの国の人間で、恥ずかしがり屋で、セキとうたの二人とよくつるんでる。  しずるという番がいて可愛くて、細っこくて、可憐で、……可愛くて……可愛くて……  だから、傍に居たら凄く幸せな気分になれる。    でも……それ以外に、僕は雪虫の何を知っているって言えるんだろうか? 「…………」 「それに、雪虫は今日からヒートに入るから、親友だって言うなら連絡を入れているはずだ。現にうたは受け取っているんだから」  うた は、シェルターに保護された人間達の世話係があったりするから、その関係で受け取っているに違いない。 「う、うけ……と……確認し忘れてるだけかもだろ!」  そう言って携帯電話を確認しようとした瞬間、しずるの手が伸びて僕の手首をぎゅっと掴んだ。  それは一瞬のことで、普段焦ってなかったらすっとかわせたんだと思うんだけど、逃げることができなかった。  視線を落とした先には、元気になりたい時にこっそり見ている雪虫の写真が画面いっぱいに映されている。   「おい、それ……雪虫の写真だろ」 「 ────っ! ちが 」 「オレが見間違えるわけない!」  叫ぶように言ったせいか、受付傍の警備員が僕達の方へ歩き出す。 「ここはすべて写真撮影禁止だってあんたなら知ってるよな⁉」 「 ────っ これはっそれっぽくAIで作った画像で  「じゃあ確認させてもらう!」 「ちょっちょ……どの立場で人の携帯電話を確認とか   」  しずるは一旦僕から手を離すと、胸元のポケットから身分証を取り出した。  堅苦しく細かな文字で『Omega Dynamics-Inhibitor BirthLife Sciences Labs』と書かれていて、その下に『助手 阿川しずる』と名前が印刷されている。  紙にマジックで書いたようなちゃっちい奴じゃなくて、ホロとかもついてるきちんと発行されたカードは鋭利な刃物のようだった。  ひたりとそれを突きつけられて、手がカタカタと震え出す。   「下っ端だけど、オレはこの研究所の関係者だ。もしくは雪虫の番として、確認する権利はある」 「な、ないよ!」 「ある」 「ないっ! ないったらない!」  僕が叫んだのと警備員が傍にきたのがほぼ同時だった。  研究所に背を向けて一歩踏み出して、よろけそうになる。  膝が震えてどうしようもなくて、すがりたくて雪虫の写真を見ようとして携帯電話がなかったことに気が付いた。  僕の携帯電話は今、研究所預かりになっている。  

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