663 / 698
モザイク仕立ての果実 31
「ふざっけんなよ……」
あの時、傍にきた警備員はしずるからの話を聞いてすぐに僕を研究所の部屋に連れて行った。
そこは飾り気一つなくて、申し訳程度に椅子が置かれているくらいだった。
携帯電話は警備員が預かるといって持って行ってしまったから、僕は何もすることができないまま待つしかなくて……やっときた人が入ってきた時には待ちくたびれるほど待った後だった。
謝罪の一つでもあるのかなって思ったけれど、弁護士を名乗ったその人は禁止されている研究所内で撮影を行ったこと、それにより今後母達との面会が難しいことと研究所への立ち入りが禁止されたことを、何枚もの書類を指しながら丁寧に説明するだけで他には何も言わない。
つまり簡単に言えば、僕は、雪虫を盗撮したことで出禁になった ということだった。
そうなってしまうと幾ら親子だからって母達には会えない。
「なぜ?」と問い直すと、先程された説明を丁寧に丁寧に嚙み砕いて話され、僕がもういいです! って言うまで続ける。
完全に嫌がらせだ!
最終的にその書類の束にサインさせられて、携帯電話は身元確認の取れた電話番号のメモ以外は返してもらえなかった。
「なんで僕がこんな目に……」
それに一枚写真を撮るくらい、誰だってしてるはずだ。
たまたまバレたからって、どうしてこんなことをされなきゃいけないのか!
悔しさに滲む涙で視界がぼやける。
むしゃくしゃして友人に愚痴の一つでも零したかったけれど、返されたメモの中に友人の電話番号はなかった。
手続きすれば、身元調査の終わった人の番号は教えてもらえるらしいけれど……その申請もややこしそうで、友情と天秤にかけたら微妙なところだ。
しかたなく唇をひん曲げて歩き出す。
どこか気分転換になるところに遊びに行こうかとも思ったけれど、手には母達に買ったケーキがある。
随分と時間が経ってしまっているから、もうクリームは溶けてしまってて食べられないかもだけれど、ゴミ箱に捨ててしまうには罪悪感が勝つ。
「いったん家に帰るかぁー……」
一度家に帰ったら出かけにくくなるんだけどなってぼやきつつ喜多のマンションに向かう。ポケットに入れてある鍵を探ろうとして、その指先が何にも触れないことに気が付いた。
念のため立ち止まって、ポケットの中をもう一度念入りに探してみる。
僕は、必ず鍵はお尻の右ポケットに入れるって決めている。
だからそこにないってことは……
「えっ⁉ 嘘ッ!」
持って出るのを忘れたかどこかで落としたか……出る時は喜多が見送ってくれたから鍵を使わなかった。可能性があるとしたらどこかで落としたか だけど、僕はそんな間抜けじゃない。
だから、第三の可能性として誰かに盗られたってのが一番濃厚だと思う。
ともだちにシェアしよう!

