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モザイク仕立ての果実 33
次々とわめきたてられて、僕は咄嗟に耳を押さえてしゃがみこんだ。
でもそんなことじゃその人達のイジメは止まんなくて、僕に向けて僕が喜多をつき纏いで警察に通報したのがどれだけ間違いで、どれだけただの自意識過剰だったかを責め立ててくる。
「そ、 そんな こと、っない!」
大声で叫び返す。
「喜多さんが会社に必要とされてたのが羨ましかったんでしょ⁉ 喜多さんは仕事できるから 」
「アルファだから……当然だよ……」
「じゃああんたが仕事できないのはオメガだから⁉ でもお生憎ね! 私はちゃんと仕事できるわよ!」
「そうだそうだ! 君みたいに自分で何も考えず、教えられてもメモも取らないんじゃ、仕事なんてできないよな!」
「雑用もまともにできないのに、痴漢されたとかセクハラだとかばっかり言ってるんじゃねぇぞ!」
「ち ちが……そ、それは っホントに 」
きつい調子の言葉に言い返すけれど、多勢に無勢で一つ返したら十返ってくる状態だ。
「喜多さんが仕事のできなさをみかねて声かけてくれたのをストーカーとか言って!」
「だ、だって……ホントに……」
唾を飛ばしながら言われて、僕はますます縮こまる。
「待って! 皆待って!」
うずくまった僕をひょいと持ち上げて、喜多は庇うように皆の前に出た。
一番の被害者である喜多が止めたことで、会社の皆はさっきまでの勢いを落としてモゴモゴと口籠もりながらお互いに視線を交わす。
「でも……その子のせいで喜多さん、出世が……」
「出世とか俺はあんまり興味ないし……それに、巳波ちゃんはちゃんと謝ってくれたんだよ。きちんと話し合って、今では仲がいいんだ」
誰が謝ったって⁉︎ って声をあげそうになったのを後ろ手に止められて、仕方なくムッと口を曲げる。
「喜多さん……大丈夫なの? その子にいいように使われてない?」
そう言って僕を見る目には、寄生虫を見るような嫌悪のこもった感情が見え隠れしていて、ぞわぞわとした感覚にもう一度身を小さくした。
「オメガにはヒートもあるんだから、喜多さんは特に気をつけないと……」
発情期になった時、襲われて取り返しのつかないことになるのは僕の方だってのに、会社の皆は喜多の心配しかしない。
犯されて孕まされて奴隷にされるのはこっちだってのに、そんな心配を微塵もしてくれていなかった。
「そん そんなことするわけないよ!」
喜多の心配をするその輪に叫んで、僕を押さえていた喜多の手を振り払った瞬間、ずっと持っていたケーキの箱が大きく跳ねてクリームをぶちまけながら足元に転がる。
保冷時も温くなってクリームの溶けたケーキは喜多のスラックスにベッタリと張りつくように流れ出して、ぼとん と鈍い音を立てた。
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