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モザイク仕立ての果実 37
「なれるわけないでしょ」
「っ ……ぅん、ごめんね。好き勝手言っちゃって」
「諦めてよ。僕、オメガじゃないんだからアルファの恋人とか番とかなれない」
なる気もないけど。
喜多は一瞬首を傾げて、それから少しだけ僕の方に身を倒した。
すん と匂いを嗅ぐ仕草をして、はっとなると慌てて距離をとる。
「ごめっ つい! ……でも、巳波ちゃんはいつもいい匂いがしてるよ? オメガだよ、すごくドキドキする匂いがしてるよ?」
「勝手に嗅がないでよっ」
「ごめんっ」
びくりと怯えた顔をして喜多は少し下がって正座をした。
「オメガじゃないって言うことと、シェルターから出てきたことと何か関係があるの?」
喜多はびくびくしながらも真剣な眼差しで僕を見ている。
そこにわずかでも好奇心とかそういった僕を軽んじる感情がないかじっと見てみたけれど……
「……別に。僕、が、……ちゃんとしたオメガじゃなかっただけ」
あれほどΩに生まれたことを悔やんでいたのに、いざはっきりと口に出してしまうとなんだか胸の中がこねられるような気持ち悪い不安感に襲われる。
そんな僕の心の中なんて気にもせず、喜多はよくわからなかったように首を傾げた。
「なんか……体の一部分にオメガじゃないところがあるんだって」
僕の説明は端的すぎたけど、瀬能先生のしてくれた小難しい説明を繰り返すことは無理だ。
わからなくてもこれで理解してもらうしかない。
「だから、僕はオメガじゃないし、オメガじゃないからシェルターには入れないし、だからお母さん達にも会えないし……」
Ωだと虐待されて、Ωじゃないからって拒否されて、何もかもなくなって……この時になって僕は自分が途方に暮れていることに気がついた。
「だから、部屋を探してたの?」
「……うん」
「もうシェルターに帰れないの?」
「そうだよ」
友人達の連絡先も消えてしまって、親族にも頼れないこの状況で……困り果てているんだってじわりと実感する。
「……追い出す?」
「えっ⁉︎ なんでそんな話になるの⁉︎」
「オメガとして使えないから」
「なんで⁉︎ なんでそんな話になってるの⁉︎」
喜多が大慌てでこっちに寄ってくるから、テーブルに溢れたままだった紅茶に手をついて体勢を崩しかけた。
「俺っ巳波ちゃんを使える使えないでみてないよ?」
紅茶まみれになった格好で言われても、全然心に響かない。
「そんなふうに言わないで。俺は……巳波ちゃんが傷つくのが嫌だよ」
喜多は紅茶まみれの手を服の裾で拭くと、いつの間にか固く握り締めてしまっていた僕の手にそっと触れた。
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