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モザイク仕立ての果実 41

「アルファをオメガに変える治療法だって!」  パァッと太陽が昇るようないい笑顔で言われても、僕はそんな眉唾に惑わされるような人間じゃない。  しらーっとした目で見てやると、自分のはしゃぎっぷりが恥ずかしくなったのか喜多は身をすくめてしまった。 「僕が頭悪いのは否定しないけどさぁ、流石に性別を変えれないことぐらいはわかってるよ」  外見的なものならどうにかなるだろうけど、遺伝子をまるっと変えてしまえるなんてなったら魔法の技術だってわかる。  αの喜多がそんなことを言い出すなんてなんて馬鹿らしい話なんだってことだ。  少し怒った僕を見て、喜多はますますしょげながら再び本のページを捲り始めた。  別に、期待したわけじゃない。  だから喜多が夕飯の材料を買いに行くタイミングを見計らって……ささっとさっき喜多が見ていた本を盗み見る。  分厚い本のどこにさっきの話が載っているのかわかるかハラハラしたけれど、喜多が念の為に付箋を貼っていたみたいで、僕を誘うように薄緑色の紙がヒラヒラしていた。  だからそこをさっと開けて、読むだけ読んでみようと思ったけれど………… 「あ……う……」  並ぶ小難しい文字に阻まれて、僕はおろおろとするしかない  なぜならそれは全て英語……英語だよな? なんかちょっと違う気がするけど英語で書かれていて、さっぱり読めなかったからだ。  指でなぞって……なんとなくこれがビッチングって単語なんだなってのはわかったけれどそれだけで、あとはAとかITとかそんな部分だけしか読み取れない。  翻訳アプリを使えばいいんだって後から気がついたけど、今の僕には急いで読んでしまわなきゃいけないって焦りがあって、すっかりそれを忘れ去ってしまっていた。  だから、他の本に挟まれた付箋を見つけると、最初の本を放り出してそっちに飛びついた。  そこでもやっぱり、ビッチング……と言うよりはαの性転換?についての研究の話らしかった。幸いにして日本語で書かれていたから漢字の難しさはともかくなんとか読むことはできる。 「び ビッチング  は、アルファ性の人間が性的な〜〜にアルファがアルファに対してせ、せー〜〜を行い、その〜〜に体内へのせ えき? を大量に〜〜すれば、〜〜〜〜〜〜性? へ 変?……」    …………?  これが素直に読めていたら、僕は会社で虐められてたりはしなかった。  でもなんとなく、もしかしたらこの体がどうにかなるんじゃないかって思えてしまった。このまましっかり読めば、再びシェルターに入ることができる程度にはなるんじゃないかって、希望を持たせるには十分だった。  僕は慌ててその本を引っ張って、携帯電話でわからない単語を一つ一つ調べながら一心不乱に読み進めた。

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