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モザイク仕立ての果実 43

「喜多さんがここに本を積んでて邪魔だったから避けようと思ったの。でも重くて持ち上がらなくて。片付けようとしただけで別に中身なんて見てないからね」 「そうだよね、ごめんね。リビングに積んでおくと邪魔だよね、すぐに片付けるからね」  喜多はあっという間に何冊もの分厚い本を積み上げると、それを一気に持ち上げる。  絶対絶対重いだろうに、軽々と持つ腕は筋肉でできた筋が見えてて……ちょっといいなって思った。  よくよく考えたら喜多もαだ。  しかも僕の言うことはなんでも聞いてくれるし、僕の体のことも知っているから手伝ってもらいやすい……とは思う。  こうやって居候させてくれているんだし、僕のことを嫌ってはないようだし……ちょっと触らせるくらいならさせてあげてもいい かも? 「ん? 巳波ちゃん、どうしたの?」  僕とのアレソレコレを考えないわけじゃない みたいなことを言っていたし、出会い系で一から探してってよりはハードルが低いとは思う。  とは思う、ばかりだけれど。  喜多の……カフェラテ色の目は気に入っている。  重いものを持てる腕はかっこいいと思うし、喜多が僕に暴力を振るわないのはわかっている。  この同居生活が快適になるように、いろいろと気を配ってくれていることも知っている。    僕のことを今、一番よく知っている他人は喜多だ。 「……アルファとセックスしたら、怒る?」 「え? あ……」  体育座りで床の上から喜多を見上げると、大きくて山のようでやっぱり怖い。 「巳波ちゃん? いきなり……そんな…………ぇっと、好きな人、できた?」  真っ青になりながら本を放り出して僕の目の前にへたり込む姿は、項垂れた大きな犬のようだ。 「あ え ……バイト先で、いい人、に、で、であ   」  揺れるカフェラテ色の瞳を見ていると、宇宙の始まりはこんなにぐちゃぐちゃな状態だったんだなって想像させる。  表情はなんて言えばいいのか……真っ青だし汗は浮き出てるし、口元は震えてるし、いつものニコニコとした表情じゃない。 「ぅ……ぁ  ぁ、その、   」  じっとりと汗で濡れた手が僕の肩に触れようとして……直前で止まって震える。 「例えばの話だって」  あんまりにもその姿が可哀想だったからその一言を付け加えると、あからさまにホッとした表情をして床に崩れ落ちた。 「な、なんでそんな 話  」 「……僕、もうすぐヒートだから。喜多さんに迷惑かけたくないから、アルファとヤってささっと終わらせてこようかなって」  口からの出まかせ ではない。  Ωの発情期はαに付き合ってもらったら楽だし早く終わる……らしい。いつも自分で頑張ってる僕にはわかんないけど、皆そう言ってる。

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