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モザイク仕立ての果実 44

 その言葉に喜多はショックを受けて泣きそうな顔をして……でも、そこまでだ。 「ヒートの間は、俺が出ていくから巳波ちゃんはここで過ごして! ご飯は定期的に届けるから、きちんと食べてね、それから……」  喜多は前から僕の発情期の際にどうするか考えていたのか、つらつらと連絡事項のように発情期中の話を項垂れたまましていく。 「ここはちゃんと防音になってるし、匂いも漏れにくい設計になってるから  」 「家主は喜多さんなんだから僕が出ていくのが筋じゃない?」 「ヒートの巳波ちゃんを外に出せるわけないでしょ! ほ、他のアルファに匂い嗅がれたらどうするのっ!」 「どう って……ヤられる?」    揶揄うように言うけれど、喜多の表情は真剣だ。  僕の茶化しを笑ってくれなくて、気まずさに膝を抱え込む手に力を込める。 「巳波ちゃんの意思も人権も無視して、そんなことになっていいの?」  揺れていた瞳が真正面から僕を見て、僕の心配をして、僕だけを映す。  僕を、尊重してくれているんだって…… 「だから、巳波ちゃんがここを使って」  さっきは茶化すところじゃなかったんだって……反省しながらこくりと頷いた。  いつものように寝る前の水を飲もうと小さな冷蔵庫に手を伸ばそうとした時、喜多が湯気の立つカップを持って部屋へと入ってきた。 「お水もいいけど、ヒート前なら体を温めたほうがいいかと思ってココアを淹れたよ」 「ココア!」  寝る前にベッドで甘いものなんて罪悪感が湧くけれど、美味しいものは美味しいんだから罪はないってことにしておこう。  受け取ったカップの中身は濃いチョコレート色でほんのりスパイシーな香りがしている。 「生姜を入れるといいって聞いたから、体を温めるために入れておいたよ」 「しょうが……」  せっかくのココアになんてものを入れているんだって文句の一つも言いたかったけれど、それも喜多の心遣いの一つなんだって思うとちょっと我慢してあげようって気分になってくる。  だからそろりと熱そうな液体に口をつけた時、甘さとほろ苦さ、それから生姜の風味が混ざった味に驚くしかなかった。 「美味しい!」 「よかった、熱いからゆっくり飲んでね」  ココアと生姜がマッチするなんて意外で、ついするすると飲んでしまった。 「これ、美味しい!」  まるで小さな子供のような感想を繰り返していたことに気づいて、慌てて口元を拭う動作に紛れてゴニョゴニョと「生姜がアクセントになってていい感じ、ほろ苦さがあるから甘味が引き立ってよかった」って付け加える。  これでちょっとは大人っぽい返事ができたかなって、ほかほかと温かくなった体を横たえた。  爪先を絡めてもぞりと足を動かす。  足の指はどこかしっとりと湿っていていつもの感触じゃない。 「  っ、ぅ」

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