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モザイク仕立ての果実 45
ネックガードがいつもより苦しく感じて、寝起きの朦朧とした感覚の中で一生懸命引っ張って少しでも隙間を作ろうと足掻いた。
指を差し込んだネックガードの内側も汗でぬるりとしていて、僕は上階から水漏れでもしているのかと最初は思った、けれど……腰が自然と動き、シーツに擦り付けて快感を拾い始めた瞬間に発情期だって飛び起きた。
「 っなんで⁉︎ まだ先なのにっ」
僕は発情期の周期が安定しているからこんなに早めにくることなんてなくて、一瞬頭の中が混乱してどうしていいのかわからなくなって……
いつもなら事前にタオルとかティッシュとか食べ物を用意して、ちょっとエッチなおもちゃも枕元に置いて準備万端にして臨むのに、この場には何もない。
慌ててベッドに敷くバスタオルだけでも持ってこようと部屋を飛び出した瞬間、暗闇の中でギラリと光る目と視線が絡んだ。
電気を消されて闇に沈み込んだそこは普段の明るいリビングと雰囲気が違うのは当然だったが、ソファーの上で黒い塊がカフェラテ色の瞳をギラつかせてこちらを見る様子は僕に恐怖心を抱かせた。
「 巳波 ちゃん?」
「き、喜多さんは……寝てて……」
「巳波ちゃん、いいにおいがする」
呆けたような声はいつもより幼く感じるほどだ。
「ね、ねぇ……で、出てって……」
「でてく?」
ぼんやりと言葉を繰り返す様子は、喜多の皮を被った全くの別生物なんだって思わせる。
きし って小さくソファーが音を立てて、暗闇の中で光る目がふらりふらりと左右に振れて……
僕はすぐに部屋に戻って鍵をかけるべきだってわかっていたのに、怖くて怖くて身がすくんで動けない。
一歩一歩近づいてくる度に濃くなっていく喜多の匂いに、体が自然と反応して奥の方からこぷりととろみのある液体が溢れ出す。
イジってもいないのにアナの奥がジンジンと痺れて自然とくぱりくぱりと蠢く。
「喜多 さ 」
どん と喜多の腕が壁につき、僕は囚われてしまった。
右も左も喜多の腕に覆われて、はぁ と深く息を吐く口が喉元に近づく。
いつも清潔に思えたミントの香りが寒々しく肌に触れて、立った鳥肌と冷えた汗の感覚に震えが起こる。
大きく開かれた口の中には唾液をまとった綺麗な真珠色の歯が並び、その奥の舌は単独で動くそういった生き物のように僕を舐めたがっているようだった。
「 ひ 」
掠れた悲鳴が喉の奥でわだかまって消えていく。
このまま押し倒されてメチャクチャにされるんだって予感で、心臓は破れそうなほど動いているのに胸の内はヒヤリと冷たくなった。
「巳波ちゃん、きちんと鍵 かけてね」
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