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落ち穂拾い的な ビッチング
「アルファ同士で性交渉して、性別が変わる?」
しずるが尋ねた言葉を繰り返しながら、瀬能はすでに吹き出しつつあった。
「ビッチングって言うらしいんですけど、あまり資料がないから詳しくわからなくて……」
「あー……ああ、うん。1699年の書籍が一番詳しく書いてあるけどね」
瀬能はふふ と堪えきれない笑いを溢しながら続ける。
「当時の王家筋のアルファがオメガに性変転したアルファを娶ったと言う事実が書かれた本だ。『dormu dormeto』の著者は不明だけれど宮廷の記録官が個人的に書き留めたものか、もしくは王が特別に書き留めさせたものだと言われていて、……まぁ、アルファの王子には昔から近衛騎士でありアルファの恋人がいたが、繰り返し交わされる情熱によって恋人がオメガに性変転して無事に番になり子をなしたって内容だよ。この王子は実在も確認されているし、近衛騎士がのちに王妃になったのも確認されている。随分と盛大な披露宴が行われたのも記録に残されている」
「え……じゃあ実際ある話なのか、愛が奇跡を呼ぶってあるんですね」
しずる自身はαと……と考えられなかったが、世の中にはいろんな愛があっていいと思うし、それが番という形で反対もされずにしっかりと結ばれたのならさらにいいとは思う。
「君はどうしてそこで納得してしまうかな」
「へ?」
「真相はこうだ。王子は近衛騎士以外に誰かを愛することは考えられなかった、そこで騎士の性別が変わったと嘘を吐き娶った。彼の首に偽の歯形をつけ、こっそりとオメガに産ませた子供も用意してね」
にやにやとした表情の意味がわかって、しずるは肩を落とした。
「そして家臣達には騎士はきちんとオメガの体になったと証明してみせた」
「しょう め ?」
「家臣の目の前で騎士を抱き、濡れる後唇と使い物にならない性器を披露したのさ。肛門にはあらかじめ黄蜀葵のローションを仕込みオメガらしくして、まぁナニの方は後ろの使いすぎてとっくに使い物になってなかった らしい。その時の様子が犬のメスのようだったことからアルファがオメガになったと言い張ることを示すスラングとして、ビッチングと言われるようになったのさ」
ははは と笑い、瀬能はコーヒーを啜る。
「そ そこまで、するんですか?」
「そりゃあ、国の後継者問題なんだから、これで騙されてくれたなら可愛らしい方じゃないかな?」
「…………」
「好きな人に対して、なりふりなんか構ってられないのは今も昔も同じってことだよ」
そう言うと瀬能はパチン と綺麗なウィンクをしてみせた。
END.
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