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第2話

 気づけば、俺は裸のままベッドに横たわっていた。枷は嵌められたままだが、それなりに自由に動くようになっている。だが、部屋の扉までは届かないだろう。それ以前に、あまりにも怠くて動く気になれない。  バケモノはじっと俺を見下ろしていた。頭は黒い靄に戻っている。心なしか、機嫌が良さそうに見えた。  バケモノは部屋を出ていく。暫くするとパンが焼ける良い匂いと共に戻ってきた。バターが乗ったトーストの皿と、白いマグカップを持っている。目の前に皿とカップを置かれると、ぐうう……と俺の腹が鳴った。しかし指1本動かす事ができない。  俺が黙ってそれを見ていると、バケモノがベッドに座り俺を膝の上に乗せた。その拍子に尻からどろりと液体が流れ落ち、バケモノの太ももを濡らす。バケモノはそんな事を気にする様子は無く、トーストを小さく千切り、俺の口の中に強引に突っ込んだ。 「んぐッ!?」  ぐっ、ぐっ、と喉の方まで押し込まれる。飲み込め、と言っているのだろう。拒否する間も無い。抵抗の意を込めてバケモノの指ごと噛んでやった。バケモノの指は固く、布の味しかしない。バケモノは驚き、即座に俺の口から指を抜いた。それでも懲りないのか、ふた口目のパンを千切る。俺が口の中の物を飲み込んだタイミングでまた押し込まれた。だが今度はすぐに指を抜かれる。  バケモノは次に、マグカップとスプーンを手に取った。中身はコーンスープだ。スプーンで掬ったやつを同じように俺の口に突っ込んでくる。しかし俺が嘔吐くとすぐにスプーンは抜かれた。ぬるいのはすぐに飲めるようにしてくれたからだろう。  食べさせ方は乱暴だったが、バターが染み込んだ焼きたてのパンも、サクサクのクルトンが入ったコーンスープも美味しかった。何か盛られているんじゃないかと疑っているが、食べてしまったものは仕方がない。パンを完食し、スープも飲みきった。  全部平らげると、やっと膝から下ろされる。支えが無くなり、俺は再びベッドに倒れ込んだ。  バケモノは食器を持って、今にもスキップしそうな軽い足取りで……というか、食事を持って来た時よりも足を上げ小さく揺れながらドアの向こうに姿を消した。 「帰りたい……」  手足に付けられた枷は鍵が掛かっており、簡単に外せそうにない。鍵を持っているのはきっとあのバケモノだろう。 「何で俺こんなところにいるんだろ」  あのバケモノに会わなければ、こんな事にならなかった。何でこんな現実にあんなバケモノがいるのだろうか?  昨夜の記憶を辿る。いつも通り終電まで残業し、自宅の最寄り駅で降りた。その後家まで歩いている途中に通る路地裏の奥のに何かが不自然にキラリと光るのを見た。それに近づき、しゃがんだ時に一瞬、目眩がしたのだ。天地がひっくり返るように視界が一周して、目を開けた時には拾おうとしていた何かは無く、立ち上がって元の道に戻ろうと振り替えったらあのバケモノが立っていた。 「まさか、現実にあのバケモノがいるんじゃなくて、俺が異世界とかに来ちゃったのかな?」  あり得る。むしろ何故今までその可能性を考えなかったのか? それこそ現実的ではないからだ。 「誰か助けて……」  俺の言葉に反応したように、ガチャリと扉が開く。姿を見せたのは当然あのバケモノだった。バケモノは数冊の本とサッカーボール、小さなカラーボール、バッドを持っている。それで何をするのかと思えば、どさっとまとめてベッドに置いた。  バケモノが床にしゃがむ。できるだけ目線の高さを合わせるようにしているみたいだ。目は無いのに視線を感じて落ち着かない。子供の頃拾った子猫も、こんな気分だったのだろうかと思った。  手で1番近くにあった本を引き寄せる。開いてみたら、知らない記号が沢山並んでいた。他の本もそっと覗きこんだが、日本語で書かれたものは無い。これでは文字で伝える事もできないだろう。  バケモノは何もしてこない。そのうち欠伸が出て、俺は目を閉じた。  目を覚ましたら、部屋が薄暗かった。何時間眠っていたかは分からないが、日が沈んだらしい。バケモノは俺のベッドに置いた本を読んでいる。だが、俺が起きた事に気づくと、本を閉じて近づいてくる。そしてその本を俺に差し出した。 「読めないんだけど」  そう言っても伝わらないだろう。俺はふるふると首を横に振る。すると、バケモノは他の本を渡そうとした。それも要らないと伝えれば、今度はカラーボールを転がしてくる。横になったままそれをぶつけるように投げれば、頭部の黒い靄が大きく揺れた。そして今度は軽く投げてくる。次は靄に向かって投げつけたが、手でキャッチされてしまった。  3度目は返すのを止めた。バケモノは俺が投げ返すのを待っていたが、数分経って諦める。次はサッカーボールを転がしてきたが、それも無視してやった。  バケモノが首を傾げる。何かを思いついたような仕草をしてから、部屋の外から分厚い冊子を持ってきた。  バケモノが中を開く。それを見た瞬間、思わず「ヒッ」と悲鳴を上げた。その中にはずらりと、昨夜撮られた写真が貼られていたのだ。  バケモノは俺に見せつけながら、パラパラとページを捲る。そのどれもが身動き取れない状態で犯され、涙を流す俺の姿ばかりだ。色白のはずの肌は真っ赤に染まり、涙と汗に濡れた黒髪が頬や額に張り付いている。両脚の付け根の間には太くグロテスクなものが突き刺さっていた。   「悪趣味なバケモノが……」  気持ち悪い。吐き気がする。何でこいつは俺にこんな事をするのだろうか?  俺が良い反応をしていない事に気づいたバケモノは冊子を閉じた。そしてまた悩む素振りを見せる。 「もう良い、何もすんな! もう帰らせてくれ!」  俺は必死に叫び、訴えた。すると、バケモノがコクリと頷く。 「え?」  バケモノは冊子を持って俺から離れ、部屋を出ていった。  まさか伝わったのだろうか? もしかして本当に帰してくれるのか?  しかしその期待はやはり裏切られる。バケモノはステーキを一口サイズに切ったものを乗せた皿を持って戻ってきた。朝と同じように俺を起こして膝に乗せ、フォークに肉を刺して俺の口元に持ってくる。  腹は減ってない。口を開けようとしない俺を見て、バケモノはしきりに首を捻っているようだ。先程の叫びは空腹を訴えたのだと解釈されたらしい。バケモノは俺の口を無理やりこじ開け、肉の塊を放り込んだ。  仕方無くそれを食べる。微かに塩のようなしょっぱさを感じるが、他に味付けはされていない。多分牛肉か何かだろう。少々固く、飲み込むまでに時間がかかる。  食べ終わると、バケモノは俺の頭を撫でた。その手はやけに優しい。やり方はさておき、多少は愛されているのではないかと錯覚する程だった。  暫くしてから、手足の枷を残したまま鎖から外される。そのまま抱き抱えられ、運ばれた。  辿り着いたのは風呂場だった。枡のような浴槽に湯が張ってある。シャワーらしき物もあるが、体を洗うスペースは無い。俺は湯船に降ろされた。直後、頭から湯をかけられる。少し熱めだが、火傷する程では無い。  泡で頭と体をいっぺんに洗われ、湯船の湯で流される。俺としては綺麗な湯がたっぷり入った湯船でじっくり浸かりたかったが、このバケモノの入浴の仕方は違うらしい。全身をくまなく洗われてすぐに引き上げられてしまった。その後毛布みたいなフワッフワのタオルで全身を拭かれ、また抱えられて元の部屋に連れ戻される。  ベッドの上に優しく降ろされたかと思うと、バケモノは俺の上に覆い被さった。 「やだっ!」  昨夜の行為がフラッシュバックする。バケモノは手袋越しの手で俺の体を撫で回した。ぞわぞわした気持ち悪い感触と、昨夜感じた痛みや恐怖を思い出して身体が強張る。 「それは嫌だ、触るな、お願い、やだ……」  全身を撫でるバケモノの手が、とうとう尻に伸びてくる。その手を掴んで止めようとしても、バケモノは気にも留めない。抵抗むなしく、バケモノの指が俺のナカに入ってくる。 「やだあ、抜いて、抜けってばぁ……」  痛い。気持ち悪い。帰りたい。怖い。  逃げようとしても、繋がれた鎖がそれを許さない。  指を増やされ、無理やり広げられる。無遠慮に掻き混ぜられ、悲鳴を上げれば、バケモノは一層指を乱暴に動かした。 「い゛、ッ……あ、あぁ……っ」  しばらく耐えていれば、指は引き抜かれた。しかしそれで終わらないことくらい分かる。予想通り、バケモノは自身の性器で先程まで弄っていた俺の尻を貫いた。 「あ゛、あ゛あ゛ああッ」  2回目とはいえ、キツい。まるで俺の身体を足からふたつに裂こうとしているようだ。  息ができない。苦しい。繋がっているところが熱くて痛い。 「う、っく……ヒック」  泣いたって何も良くならない、むしろバケモノを喜ばせるだけだと思っていても、俺の意思と関係なく涙が溢れてくる。それが悔しくて堪らなくて、余計に泣きたくなった。 「あ、ッ……グスッ、うぅ……う」  俺を犯す性器の動きに合わせて、少しずつ水音が聞こえてくるようになった。バケモノが興奮しているのだ。不快で堪らないが、濡れて滑りが良くなれば痛みがマシになる。それに少し安堵する自分がいた。 「あ……あッ、あんっ……う……ああッ」  次第に動きが激しくなり、バケモノが微かに身体を震わせる。外に出すとか、避妊するという概念は無いらしい。バケモノの生態故か、雄同士だからなのかは分からない。こいつは人間じゃないのだ。 「ま、って……休ませ、て」  バケモノは一度の射精では萎えない。肩で息をしている俺に構わず、再び腰を振り始める。今回もまた、俺が意識を手離す方が早かった。

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