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 被服室に行くと既にクラスの被服部の女子・三枝さんが来ていた。 「西園寺くん、遅い」 「ごめん、ごめん」 「香川くんが付き添いなんて贅沢ー」  三枝さんの目がハートになってる。ほんと涼介って女子人気高いよな。 「で、これ着ればいいんだろ」 「そう。ファスナーは上げてあげるから」  ピンクと白の何段にもなったフリフリのドレス。ウエディングドレスなんかじゃなくて良かったけど、こんなドレスも恥ずかしい。なにせ、ザ・昭和だし。女子は今でもこんなのが好きなんだろうか。  ドレスに袖を通し、背中のファスナーは上げて貰う。  気がつくと涼介は隣で俺をガン見している。なんだ? やっぱりおかしくてエスコートするのやめたいとか? 「似合うな。おばさんにそっくりだ」 「西園寺くんってお母さん似なんだ? でも、似合うよね、ドレス」  母さんに似てて、ドレスが似合う? そんなの母さんにドレス着せてるのと一緒じゃんか。そこで思わず想像して寒気がしてきた。とてもじゃないがドレスが似合うようなタマじゃない。 「可愛いよ、陽翔」  涼介に可愛いと言われて恥ずかしくなる。普段は可愛いなんて言われるのは絶対イヤなのに、涼介に言われるのは、イヤと言うより恥ずかしさが先に立つらしい。これも好きだからなんだろうな。 「可愛いから、化粧なんていらないかな? チークとリップだけにしよう」  化粧をしないと言われてホッとした。いや、チークもリップも男からしたら十分化粧だと思うけど、ファンデーションやらなにやら塗られることを考えたらまだ可愛いものだ。 「下手な女の子より可愛い。やっぱり可愛い男の娘だわ」 「男の娘呼びはやめてくれ。ドレスは仕方ないから着るけど、男の娘になるつもりだけはないから」 「わからないじゃない。これで目覚めちゃうかもしれないじゃない」 「目覚めないよ。俺は男だ」 「西園寺くんて可愛い顔してるけど、すごい男意識あるよね」 「男だから男意識あるの当然だろ。それに可愛いっていうのはコンプレックスなんだよ」 「子供の頃、散々、可愛い、女の子みたいって言われてたもんな、陽翔」 「涼介!」  涼介の言う通り小さい頃は今よりも女顔で、よく女の子に間違われた。可愛い、というのはどんな子供にでも言う言葉だと知っているけれど、俺の場合は『女の子みたいで可愛い』の省略だった。  精神的には立派な大和男子だ! 誰がなんと言おうとそれは変わらない。だから、可愛いとか女の子みたい、と言われるのはコンプレックスでしかない。  だけど、涼介に可愛いって言われるのはさほどイヤじゃないんだよな。それは女の子扱いしない、っていうのがわかってるからなのか、それとも単に涼介になら何を言われてもそんなにイヤじゃないのか。多分、両方なんだろうな。 「さあできた! 可愛い男の娘の出来上がり! 香川くんもそう思わない?」 「だな。ほんとに可愛いよ陽翔。」 「さ、靴はこれを履いて。歩くの大変だと思って五センチヒールにおさえてあげたから」  五センチって十分高くないか? もっと高いの履かせるつもりだったのかと思うとぞっとする。  恐る恐るヒールを履いてみるけど、ヒールが細くて折れそうで怖い。これじゃ一人で歩くのなんて困難だ。いや、ステージ上では一人だけど。それでもそれまでは涼介がエスコートしてくれるのは助かる。 「涼介。頼むな。一人で歩ける気しないよ」 「大丈夫。任せて」 「西園寺くん。そろそろ行くわよ」  女装コンテストもノリで楽しむと決めてからは、さほどイヤだと思わなかったけど、女装して人前に出る、というのはイヤなんだな、と気づく。大体恥ずかしい。 「陽翔。ステージの袖で待ってるから安心して」 「うん。待ってて。とりあえず頑張ってくる。こんな恥ずかしい思いしたんだから絶対優勝してやる」 「大丈夫。陽翔が一番可愛いよ」  そうだ。こんなにスカートが短い女の子の衣装を着たんだ。恥ずかしい分優勝してやる。そしたら、女装したことも無駄にはならないから。  さあ。ステージの始まりだ!

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