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 涼介にステージ袖までエスコートして貰い、そこからはおっかなびっくりだけど一人で歩く。  被服室で着替えをしているときにも思ったけど、コンテストに出る人はみんな綺麗だ。お化粧してる人がほとんどだけど、元が良くないと綺麗にもならないだろう。今になって、俺が優勝なんて無理だな、と思うけど、いやいや弱気になっちゃダメだ。  十二人中たった一人なんだ、ドレスを着たのは。他の服だって女物だから恥ずかしいのは変わらないけど、フリフリドレスなんて恥ずかしいの極みだろう。だから優勝しないと自分が報われない。それか、せめて準優勝はしたい。 「レディースアンドジェントルマン! 女装コンテストへようこそ。今日は選りすぐりの美女十二人を集めてみました。あなた好みの子がいたら、ぜひ投票してください。それでは、一人ずつ紹介しましょう!」  やたらノリの良い司会者がコンテストの始まりを告げる。うわー、緊張してきちゃった。まさかこんなところで手のひらに人と書くわけにもいかないし、どうしよう、とステージ袖にいる涼介を盗み見る。  すると、俺の視線に気づき笑顔を見せてくれて、その顔を見たら少し落ち着いてきた。涼介がいてくれて良かった、と心から思う。  母さんは見に来てるのかな? 来るとは言ってたけど、誰と来るんだろう。まさか父さんじゃないだろうな。母さんと違って真面目な父さんは、俺のこんな姿を見たら卒倒しちゃうんじゃないだろうか。だから、父さんじゃないと思いたい。  と、そんなことを考えていたら名前を呼ばれた。 「3年2組、西園寺陽翔さん! 今日は可愛いミニのフリルドレスでの登場です。出場者の中で唯一のドレスです!」  名前を呼ばれて数歩前へ出ておじぎをする。それだけ。たったそれだけ。でも、ヒールなんて履いてるから、今にも転んじゃいそうだ。でも、さすがに衆人環視の中転ぶなんて無様なことはしたくない。そんな恥ずかしい思いするなら舌を噛んでやる。そう思い、一歩一歩ゆっくりと歩く。でも、それが違う方に取られたらしい。 「余裕の歩きですねー」  余裕だ? どこが余裕なんだ。余裕だからゆっくり歩いてるんじゃなくて、転びそうだからだよ! そう言いたいけど、言えるはずもない。ちくしょー。  なんとか元いた場所まで戻り、全員の名前が呼ばれるのを待つ。 「いかがでしたか? お気に入りの人はいましたか? いたら、ぜひ投票をしていってくださいね。投票の結果発表は二時間後です! また戻って来てくださいねー」  二時間? まさか、二時間後の結果発表のときもこのドレス着てなきゃいけないのか? 冗談じゃない。さっさと脱ぎたいんだ。  ステージ袖には涼介、拓真の顔はもちろん、俺にこんなドレスを着せた三枝の顔もあって、俺は三枝に突進する勢いで歩いた。 「三枝! まさか二時間もこんなドレス着てなきゃいけないのかよ?」 「んー。そこは任せるよ。一度制服に着替えてもいいし。結果発表のときにまたドレスを着ててくれれば問題ないから」 「じゃあ一度制服に着替える」  こんなの動きにくいし、何より恥ずかしい。またステージに立つときにドレスに着替えてウィッグもかぶればいいだろう。 「わかった。じゃぁ結果発表の十五分前にまた被服室に着て。リップ直すから」 「了解」  そこで拓真が口を挟む。 「陽翔。脱ぐ前に写真撮ろうぜ。香川と並んで」 「え、いや、俺は」  と涼介が逃げかけたところで拓真が引き止めてくれたから、俺も涼介の腕を取る。 「ハイヒール怖いから」  と言ったが、半分本当で半分は嘘だ。確かに怖いけど、一人で立っていられないほどじゃない。でも、拓真が気をきかせて一緒に撮ってくれようとしているから、それは無駄にしたくない。 「わかったよ」  涼介は一言そう言うと俺の腰を引き寄せる。その瞬間、俺の中の何かが爆発した。  なんだよ、涼介。なんか慣れてないか? さり気なく腰なんて抱けるものなの? 少なくとも俺にはできない。なんだよ。イケメンって行動もイケメンなのか? 俺はといえば、当然だけどそんなことをされたことがなくてカチンカチンに固まると同時に花がせり上がってくるのを必死に我慢した。

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