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 写真を撮り終えると、ドレスのままトイレに駆け込んで花を吐く。これ見たことあるけど、なんて花だったかな? あ、確かアカシアの花だ。花言葉はわからないけど。  外出先で花を吐いたときのために茶色の紙袋を用意して持ち歩いている。俺みたいに知らずに触ってしまって誰かが花吐き病を発症したりしないように。今日も制服のポケットに忍ばせているから被服室に戻れば大丈夫だ。  被服室に戻った俺を待っていたのは、心配顔をした拓真と涼介だった。 「大丈夫か、陽翔」 「吐いたのか?」 「大丈夫だから。二人とも心配しすぎ」  俺が花吐き病なのを知って心配してくれる拓真と涼介。涼介に至っては自分も発症してるから余計に心配なのかもしれない。でも、まさか今俺が吐いた理由が自分にあるとは思いもしないだろうな。  制服のズボンのポケットから紙袋を出し、バレないように花を入れる。後で花言葉を調べてみよう。 「この後陽翔は香川と一緒にまわるんだろ? 俺、投票してからクラスに戻るわ」 「わかった。もし何か手が必要になったら電話して」 「了解。じゃ、楽しんで来いよ」  拓真はこの後クラスの迷路のスタッフの時間だ。俺は女装コンテストがあったから夕方まではフリー。  急いでドレスを脱いで制服に着替える。ズボンを履くとホッとした。あんな短い丈じゃ、スースーするし足が見えていて恥ずかしい。 「涼介、投票した?」 「いや、まだ。投票してからまわろうか」 「俺に入れろよ。恥ずかしい思いしたんだから優勝しないと割りに合わない」 「もちろん陽翔に入れるよ。友達っていうだけじゃなくて、見てて陽翔が一番可愛かったから」 「涼介、可愛いとかっていう言葉恥ずかしくね?」 「別に。本当のこと言ってるだけだし」 「彼女は喜ぶだろうな」 「彼女には言ったことないよ」 「え?!」  俺には可愛いと常日頃から言っているのに、付き合っている彼女には言ったことがないなんて信じられない。あ~好きじゃないって言うからか? でもそれ言うなら当然付き合ってないし、それどころか俺、男なんだけど。  好きで付き合ってるわけじゃないから可愛いとも思わないのだろうか。だとしたら男の俺に対して可愛いなんて思うはずないし。よくわからない。なんて考えたってわからないし、訊けるわけもないけどな。   「と、とにかく投票行こうぜ。で、なんか飲みたい。緊張で喉渇いた」 「じゃ、行こう。何飲みたい?」 「確か二年生がタピオカやってたから飲みたい」  投票所に行き、自分の名前を紙に書いて投票する。自分の名前書いちゃいけない、っていうルールはないからな。そしたら、一票でも自分に入れてあげたい。これで拓真と涼介の票を入れて最低三票は入っていることになる。ゼロよりいいだろう。いや、こんな思いしたから優勝したいけどな。でも、可愛い系や綺麗系もいたから難しいかな?まぁ、もう今から何かできるわけじゃないから腹をくくるしかない。  投票をした後は、校庭に出ているタピオカドリンクの列に並び、俺は甘いのが飲みたかったから、はちみつミルクティーにして、涼介はシンプルにミルクティーにしていた。   「涼介って後どのくらい時間あるの?」 「んー、三十分くらいかな? どうした?」 「涼介、どこか見たいところある? あ、彼女のクラスとかは行かなくて平気?」 「陽翔の行きたいところでいいよ。彼女のクラスは朝一で行ったから、もう全部陽翔との時間だよ」 「ありがと。そしたらさ、俺プラネタリウム行きたいんだ。三年一組がやってる」 「じゃ、行こう。陽翔、プラネタリウム好きだよな。小学校の頃から行ってるだろ」 「まぁ、好きだからな」  俺は小さい頃から星を見るのが好きで親に連れて行って貰ってたけど、結構な割合で涼介も一緒に行ってる。  そう。小さい頃は共働き家庭の涼介や、妹の凛ちゃんも一緒に三人でどこかに出かけたりしていた。確か、よくプラネタリウムに行ってたからか涼介も凛ちゃんも結構星が好きだ。うん、俺のせい。 「じゃあ、時間もったいないから行こうか」 「そうだな」

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