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 文化祭が終わって家に帰ると、母さんが上機嫌だった。 「優勝したわね」  なんだ。本当に来てたのか。姿現さないから来なかったんだと思ってた。 「私に似た顔だからよ」 「だからと言って、誰も母さんが可愛いとか綺麗とは言ってないからな」 「あらー。でも、いつも女顔なのがコンプレックスだったけど、それが役立ったじゃない。景品が学食の券なのが微妙だけど」 「高校生の文化祭での景品、当てにするなよ」 「まぁでも、お弁当作れなかった時にお金渡さなくていいのよね。助かるわ」  これ、きっと弁当手抜きするんだろうな。いつも昼は屋上で食べてるんだけどな。学食利用は少ない。  と、母さんと話していると涼介が来た。教室の片付けで遅くなったんだろうな。 「陽翔、おめでとう!」  そう言ってハグをされる。  え? ちょっと待て。ちょっと待ってくれ。ハグはやめてくれ。嬉しいけど、やめてくれ。花、吐くじゃないか。  花がせり上がってくるのを必死に我慢するが、我慢できなくなって涼介の腕の中から必死に逃げてトイレに駆け込む。吐いたのは、アカシアだった。アカシアは前にも一度吐いたことがある。花言葉は秘密の恋、だったな確か。  リビングに戻ると、ニヤニヤとした母さんと対照的に涼介は心配顔だった。母さんの言いたいことはわかる。わかるけど、その顔やめろ。 「陽翔、大丈夫か? また花、吐いたのか?」 「え。あ、うん」 「ごめん。俺がハグしたからだよな」  え? なんでわかった? もしかして俺の気持ちに気づいちゃったとか言わないよな。そう思うと血が頭から引いていくのがわかる。 「ごめんな。つい嬉しくてハグしちゃったけど、俺なんかじゃなくて、好きなやつにハグして欲しいよな」  その言葉で母さんは、涼介の後ろで笑ってる。そして、それに気づかない涼介は申し訳なさそうな顔をしている。なんだか、盛大に誤解されてる。気持ちがバレなくて良かった、んだよな? そうなんだけど、誤解されるのはそれはそれで悲しいかもしれない。複雑だ。でも、他の誰かが好きだなんて誤解だけはされたくないかも……。 「そんなんじゃないよ。たまたま吐き気しただけで、そんなんじゃないから」 「ほんとか?」 「ほんと。ごめんな、心配させて」 「ならいいんだけど」  誤解を解くと、涼介の顔が少し緩んだ。俺の気持ちがバレるわけにはいかない。でも、だからと言って誤解されたくもないんだ。  それにしても後ろの母さんの笑い方! 人の気持ち知ってるからって! ほんと楽しそうに笑ってる。 「あー、おかしい」  母さんのその言葉に涼介は不思議そうな顔をしている。そりゃそうだよな。なんでこの場面で笑ってるんだ、って普通は思うよな。  母さん、後でシメてやるからな! 「さ、陽翔も優勝したことだし、お寿司取ろうか。それまで、あんたたちは勉強でもしてなさい。文化祭も終わったんだから、後は受験だけよ」  その言葉に、文化祭は終わったんだな、と実感した。でも、最後の文化祭、涼介と一緒にまわれて、思い出を作れて良かった。

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