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「陽翔! 合格おめでとう!」  部屋でゲームをしていると涼介が来た。私服を着ているということは、一度家に帰ったんだろう。つまり俺からのメッセージは見ていなかったってことか。帰宅途中に見ていれば、涼介のことだからうちに直接来るはずだ。そう思うとモヤモヤする。  「勉強頑張った甲斐があるな」 「努力が報われて良かったよ。一般入試は避けたかったからさ」  そう。推薦ダメなら他校の一般入試を受けるつもりだった。ただ家からは遠くなるのでできるだけ回避したかったけど。  だから、家からさほど遠くない第一志望の推薦をもぎ取れて良かった。でないと通学だけで疲れ果てるところだった。 「そういう涼介はどうなんだよ。今日デートだったのか」 「クレープ食べたいって言うから付き合ってきた」 「余裕だな」 「余裕なんかじゃないけど仕方ない」 「なんでそこまでして付き合ってるんだ?」 「なんでって……」 「好きな人のこと昇華させたいんだろ? なら、俺も同じなんだけど」 「陽翔?」  ヤバい。棘のある言い方しちまった。でも、モヤっててなんだか苛ついてる。俺のメッセージも見ずに帰ったから? 受験生なのにデートなんかしてたから? わからないけど、苛つく。 「俺、合コン行くから」 「陽翔!」 「もう大学受かったし」 「だからって」 「まだ試験も受けてない涼介がデートするなら、合格した俺が合コン行くのは悪くないだろ」 「そんなにして彼女欲しいのか?」 「涼介と同じだよ。想いを昇華させたいから。花吐き病を治したい」 「じゃあ、俺が彼女と別れたらいいのか? そしたら行かない?」 「わかんない」  わかる、わからないじゃなくて涼介は彼女と別れないだろうし、仮に今の彼女と別れたとしてもすぐに新しい彼女を作るんだろ。涼介はずっとそうやってきたんだ。 「じゃあ、彼女と別れるよ」 「別れたってまたすぐに次の子と付き合うんだろ? それじゃ意味ないじゃん」 「付き合わなきゃいい? そしたら合コン行かないか?」 「なんでそんなに合コン行くなって目くじらを立てるの? 高三だよ? 行ったっていいじゃん。受験も終わったんだし」  そう。なんで涼介がそんなに合コン行くなっていうのかがさっぱりわからない。前は受験生だから、っていうのがあった。大学決まってもいないのに彼女作って遊んでる暇はないだろう、って。でも、今は推薦取れたんだから受験生っていうのはなくなった。つまり、涼介の言う行かない理由はなくなった。 「彼女できたら、彼女とばかりいるだろ」  は? それを涼介が言うか? 彼女優先してるのは自分じゃんか。 「涼介だって彼女優先してるじゃないか。なんで涼介は良くて俺はダメなんだよ。さっぱりわからないんだけど」 「それは……」  違う。こんな話がしたいんじゃない。なのに、止まらない。 「人にダメだって言うなら、自分が行動すべきなんじゃないの?」 「わかった」 「わかったって?」 「彼女とは別れるし、次の彼女も作らない。そうしたら彼女を優先することはない。陽翔を最優先できるよ」 「別に俺を最優先にしろとは言わないけど」 「俺が優先したいのは陽翔だけだから」  そう言う涼介はとても真剣な顔をしていた。そしてスマホをポケットから出すとメッセージを打ち出した。 「別れようって送ったから」  そう言って俺に画面を見せてくる。涼介、ほんとに別れる気か? いや、送ったんだから別れるのか。 「これでいいよな」  力強い目で俺を見る涼介に、俺は何も言えなくなった。でも、実はもう合コン行くの決まっちゃってたりする。涼介が来る前に拓真から連絡が来ていたから。 「でも、もう行くの決まっちゃってる」 「ならいいよ、行って。でも、彼女は作るな」 「なぁ、なんで? なんでそんなに彼女作るなって言うわけ?」 「……」  理由はだんまりらしい。理由言ってくれて、それに納得できたら行かないっていう選択肢もあるかもしれないのにな。 「陽翔は俺のだ。ごめん、帰る」  涼介はそう言うと部屋を出ていった。

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