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EPISODE4 悔しいくらい似ているのに
「う……ッ。痛ぇ。心が痛ぇ……助けて、誰か、助けて……」
誰も助けにこないなんてわかっているけど、誰かに縋りつきたい一心だった。
一晩だけでもいい……そう思いスマホを鞄から取り出し、手頃な相手を見つけようとした時。
「あ、あんた確か兄貴の……」
「……え……?」
千歳の……愛しい恋人の声が聞こえたから弾かれたように顔を上げる。千歳が来てくれた……そう思ったから。
あいつも俺に会いたいって思ってくれたのか……そう思うと嬉しくて涙がボロボロと溢れ出す。
「あ……」
でもそこにいたのは千歳じゃなかった。凄くよく似ているのに、あいつより背が高くて、そもそも顔つきが幼い。学ランを着ていて大きなスポーツバックを背負っていた。
こんなに似てるのに……こいつは千歳の弟だ。
最終的に自分が下した判断に大きな溜息を付いた。
でも、悔しいくらい似ている。悔しいくらいに……。
「え!? あんた泣いてるのか?」
名前は確か、智彰だっけ? びっくりしたような顔をしながら俺の前にしゃがみ込む。心配そうに顔を覗き込んでくる姿に愛おしさを感じてしまう。俺は、智彰の中に、千歳を見ていた。
「智彰、お前年いくなの?」
「はぁ?」
突然突拍子もないことを口走った俺に、綺麗な眉を寄せる。それでもきっと優しいんだろう……真面目に答えてくれた。
「今高3」
「へぇ。随分年が離れてんだね。将来やっぱ医者になんの?」
「うん。そのつもりで兄貴と同じ医大目指している」
「小児科?」
「いや、俺は緩和ケアを勉強してみたい」
「緩和ケアか……」
よく似ているのに、やっぱり考え方は違うんだなって不思議に思う。
「それより、橘さんだっけ? 兄貴になんか用があってここにいるの?」
「用なんかないよ。だって俺達別れたし」
「知ってる。兄貴から聞いた。もしかして、悲しくてここで泣いてたの?」
泣いたせいで熱を帯びた目元を、冷えた指先でそっと撫でててくれる。
千歳みたいに大きな手に、止まったはずの涙がまた溢れ出す。
お願い、その顔と声で優しくしないで……。余計に辛くなる。
「ここは寒いから、とりあえずどっか行こう?」
「え?」
俺はその言葉に思わず目を見開く。
こいつ、高校生の分際でラブホにでも俺を連れ込もうと言うのか……思わず怪訝そうな顔をしてしまった。
「この辺にファミレスかカフェってあったけかなぁ。ほら、よいしょ! 俺もたまに兄貴のマンションにくるくらいだからわかんねぇんだよなぁ」
ブツブツ言いながら俺の両手を掴んでブランコから立たせてくれる。
立ち上がってみるとわかる、こいつの身長の高さや体格の良さ。やっぱり千歳とは違う。
「わぁ! 手が氷みたいに冷たいじゃん! 多分向こうにカフェがあったと思うから行ってみよう?」
俺に背を向けて歩き出そうとした智彰に正面から抱き付いた。
体が勝手に動いたっていうのもあるけど、こんなことをしたら一体どんな反応をするんだろう……っていう興味もあった。
それに、こうやって目を閉じて耳を澄ませば、千歳の声が聞こえてくる。
俺の鼓膜を優しく震わせる優しい声色に、胸がギュッと締め付けられた。
「急にどうした? 大丈夫?」
聞こえる、千歳の声が……。
心が震えて、体が火照って仕方なかった。
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