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第4話

ジワジワと五月蝿い蝉のお陰で、会話をしなくてもなんとなく平気だ。 睦月さんもあまり口数は多い方じゃないのか、ずっと煙草を吸っている。 スラッとした指や顎のラインが綺麗だ。 無駄な脂肪が付いていない。 細い。 けれど、しっかりと男を感じる。 喫煙が見慣れないからか、それがより一層引き立っている。 大人の男って感じ。 例えば睦月さんが25歳として8歳歳が離れていることになるが、10代の時の8歳は大きい。 見た目はほぼ同じ位だが、不思議とずっと大人に見える。 「あの、煙草って…美味しい…?んですか?」 「んー、そうだね。 肺が求める感じかな。 ムラムラするって言ったら分かりやすいかな」 「へぇ」 「加熱式も良いけど、紙の方が吸ってるって感じあってね。 じいちゃんもこの銘柄好きだったから、供養?も兼ねて。 煙草供えると、あの人達嫌な顔するし」 「確かに、紙煙草ってあんまり見ないかも」 今の主流は加熱式煙草。 時々コンビニ前で紙煙草を吸っている人を見るが、それだって極たまにだ。 じいちゃんが好きだった、という言葉に納得した。 俺が生まれるずっと前なら歩き煙草も出来たろうし。 今みたいにルールも揃ってなかったらしい。 なら、吸い放題だ。 喫煙者に優しい世界。 「今、いくつ?」 「17です」 「ふぅん」 スーッと細められた目に、ゾクリと肌が粟立った。 まるで蛇みたいな、目。 すべてを見ようとする目。 見透かされているみたいな、まるで裸にされたかのような感覚に足が竦んだ。 だけどそれは、瞬きの間に嘘のように消えた。 睦月さんが吐き出す紫煙みたいに空気に混ざり透明になる。 「じゃあ、吸えないか。 もしかして、高2?」 「はい」 「あぁ。 だから。 来させられたんだ。 確か1歳違いだったもんね」 気の、せい…… だと信じたい。 「じゃ、良樹さんの子は受験生か」 「俺も、受験生なら来なくて良かったのに」 「分かる。 つまんないよね。 久遠くんって、生まれる前にじいちゃん亡くなってるから顔も知らないもんね。 ほぼ他人だよ」 「睦月さんは、あのじいちゃんの…孫?」 「うん。 妾の子の、その子供」 「っ!」 「嘘。 ごめん。 信じないで。 ちゃんと、じいちゃんともばあちゃんとも血繋がってる」 悪い冗談に心臓が変な動きをしている。 「素直で可愛いね」 いや、でも、悪い人ではないんだ。 悪意のない顔で楽しそうに笑っている。 ブラックジョークが過ぎるというかなんというか。 多分、度が過ぎたお茶目な人……の、筈。

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