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第6話
「勝手に触って良いよ。
キャンバスもそっちのは全部乾いてるし。
そのイーゼルに乗ってるのは乾いてないから気を付けて。
窓辺のも」
画架に鎮座した絵も気になるが机のにあるスケッチブックを捲る。
圧倒的な画力。
細かく描き込まれた緻密な物や、短時間でさっと描かれた物まで、どれもが心を掴む。
色の着いた物に興味が湧き、キャンバスへと手を伸ばした。
美しい。
絵画の上手下手は分からないが、好きだと思った。
「コーヒー飲む?
缶のやつ」
睦月の言葉も耳に届かず、今度はキャンバスを漁る。
その中の1枚に手を止めた。
裸婦像だ。
その生々しい色使いに視線を外した。
「ん?
あぁ。
裸のやつか」
「こう、いうの、なんで描くの…?
服着てる方が難しいじゃん」
「裸の方が難しいよ。
筋肉のつき方とか、その上につく肉の質感。
肌の手触りとか想像しながら描くんだよ」
睦月の指が絵の中の女の身体を撫でる。
それが妙に艶かしい。
その指で触れられたい。
俺も。
睦月さんに。
「知ってる?
油絵って補色…反対の色を下に仕込むことで上の色が映えるの。
この色だって、それを映えさせる為に色を重ねるんだよ。
見えるものがすべてじゃない。
例えば、この肌なら下に緑を仕込むと肌に深みが出てね。
ルネサンスのフレスコ画の基本技法で、別にしなくても良いんだけど、した方が油絵独特の良さが出て好きなんだ。
久遠くんも好きかな」
触って欲しい。
睦月さんの指から腕、そして目へと視線を辿る。
この人に、触れられたい。
「それから、セックスの時にどんなプレイしてるのかって想像するともっと良い。
生々しいのが描けるよ」
睦月さんが、作り物みたいな顔で笑った。
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