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第9話

触れられていて気が付いた。 睦月は服装を乱してすらいない。 ジャケットのボタンさえしっかりととまったまま。 「睦月からさんも、脱いで。 スーツ、汚しそう…」 「それもそうだね」 待てを提示しても、睦月は嫌な顔ひとつしない。 寧ろ、そうかと納得したような顔だ。 バサッと音をたててジャケットが床に放られた。 上着がなくなるとスラックスやワイシャツを押えるベルトのせいか、より腰の細さが際立つ。 写真に写るじいちゃんも細かった。 遺伝、なんだろうな。 ちゃんと祖父と孫だと、何故かこんなタイミングで思った。 睦月はティンプルを解き、ワイシャツのボタンを器用に片手で外していく。 そして、真っ白なシャツがなくなるとソコにあるものが現れた。 「そ、れ…」 「あぁ。 これ? こわい?」 蛇の刺青が腕に絡んでいる。 まるで懐くように。 すり寄るように。 睦月に媚びてた。 「んーん。 格好良い」 そっと手を伸ばすと彫り物に触れた。 動くことのない生き物。 だけど、生きている体温がする。 蛇ではなく睦月のなのに、そう錯覚してしまう。 魅入るとはこのこと。 今にも自分の身体へと這ってきそうだ。 「いいな…」 睦月は腕を見てから久遠へと視線を滑らせた。 その流れがすごく色っぽい。 「ほんとは背中に鯉をいれたかったんだけどね。 知ってる? 背中って自分じゃ見えないんだよ」 「俺が、見ます」 俺は、なにを言ってるんだろう。 口が勝手に言葉を紡ぐ。 これは本心か興味か、自分にも分からない。 だけど、目の前の目が三日月のカタチをした。 「ほんと? なら、彫ろっかな」 睦月さんが身を屈めたかと思うと唇にやわらかいものが触れた。 「約束。 見てね」 煙草の苦味と汗の味。 俺の、はじめてのキスの味。

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