『おっさんのことすげぇ好きだから、いなくなったらどうしようって怖くて』 　『一人は寂しいから、おっさんがいなくなっても大丈夫なようになっておきたかったんだ』 　『好きだ。気持ちいい。もっとして』 　 　風間は鶫の言葉を反芻する。反芻しながら、貪るように腰を振りたくる。 　まだ頭がぼんやりしている。後頭部を金槌でぶん殴られたような、その余韻がまだ抜けない。 　鶫の不貞は事実だったが、その理由は風間の想像とは全く異なっていた。 　いなくなったらどうしようなんて、そんな心配しなくても、いなくなるわけがないのに。仮にいなくなったとしても、大丈夫になってほしくない。他の男で寂しさを紛らわすなんて、そんなことは絶対してほしくない。 　しかし、鶫がそんな風に思っていたなんて知らなかった。内に秘めた独占欲と優越感が満たされていくのを感じ、ぞくぞくした。鶫の中で風間の存在がそこまで大きくなっていたなんて、まさか思いもしなかったのだ。 　 「やっ、や……もっとうごいて、奥ついて……」 「でもお前の中動いてるし、これでイケるんじゃないか？」 「む、むりだっ、むり、うごいて……っ」 　 　鶫の思いも寄らないいじらしさに、燃え盛っていたはずの怒りはあっさりと鎮火した。けれど、やっぱり何かやり返したくて、わざと焦らして意地悪してしまう。 　 「お前の中、嬉しそうに吸い付いてくるぞ。そんなにいいか？」 「あっ、んん……いうなってぇ」 「他の男の前でも、こんなどろどろになったのか？ 淫乱」 「な、なんない！ あんただけ、っ、おっさんだけだ、こんなきもちいの……」 「オレだけか」 「っ、そうだよっ……！ 他はいらない、あんたがいいんだ……っ」 　 　鶫は、両手を風間の首に絡ませて縋り付いた。 　 「好きだ、おっさん」 「……っ」 　 　ああ、堪らない。このかわいい男は――大の男に向かってかわいいも何もないが、風間の目には愛らしく映っているのだから仕方がない。強く、美しく、その上若い、目の前のこの青年は、男も女も選り取り見取り選びたい放題の中から、ただ一人風間を選び取ったのだ。 　自分で言うのも何だが、つまらないおっさんだ。若い男でも、美しい女でも、鶫の麗しい容姿ならば、いくらでも寄ってくる相手はいるだろう。それでも、鶫は風間を選んだ。この状況で自尊心が満たされない人間など、この世に存在するだろうか。 　思いのほか自分が鶫に執着していたということを、風間は自覚した。そしてまた、鶫も案外風間に執着しているらしいということを知った。 　 「ぁいくっ、いくっ、またいくからっ！」 「何回でもイケよ」 「ンぁ゛、お゛っ、おく、おぐがっ、あ゛っ」 「好きだろ。いっぱいしてやる」 「あ゛ぁあっ！ だめ、やめ、いくいくっ、いぐっ、でるぅ゛っ――！」 　 　屹立した逞しい性器からは、精液ではない透明な液体が噴き出した。ぷしゃ、ぷしゅ、と風間が突く度にお漏らしする。鶫はいやいやとかぶりを振り、頬を濡らしながら何度もイッた。 　 「あァ゛っ、もっ、むり、やっ、きもちっ、やだっ、きもぢいのやだぁ゛っ」 「じゃあどこがいいんだよ。ここか？」 　 　きゅ、と尖った乳首を抓ると、鶫はガクガクと喉を反らしてイッた。 　 「それとも、これがいいのかよ」 　 　半開きの唇を塞ぎ、舌をねじ込むと、鶫は電撃に貫かれたようにビクビクと痙攣した。精液だか潮だかよく分からない液体を顔の方まで撒き散らし、全身をびしょびしょに濡らした。腹筋の窪みに水溜まりを作っている。 　 「癖ついちまったか？ えらいな」 「ぅあ、ぁ、やら、ゃ……っ」 「気持ちいいな、鶫」 「んぅ、ン、すき、きもひ……」 　 　顔付きも体付きもすっかり男らしく育った鶫が、風間の腕に縋り付いて、あられもなく乱れ、与えられる快楽に溺れて、シーツの海を藻掻いている。 　その事実だけで十分すぎるほど満たされるのに、さらにこいつを人目の付かないところへ隠してしまいたい、なんていう仄暗い欲望も頭をもたげる。 　いや、本当は分かっている。鶫には自由が似合う。もはや鳥籠に捕らえられた小鳥ではないのだ。大空へ羽ばたき、天高く囀る。それが鶫にふさわしい生き方だ。たとえ風間がいなくなっても、大空へ自由に飛び立っていくのだろう。それでいい。 　 「きす……」 　 　鶫は、両脚を風間の腰に絡めて甘える。美しく整った精悍な顔立ちが、快楽に甘く蕩けている。うっとりと舌を差し出され、風間もまた恍惚に浸る。鶫の舌は、蕩けたキャラメルのような味がした。その甘美に酔いしれて、風間はうっとりと目を瞑る。