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第48話 春樹※
フィエロのレセプションパーティーには、大幅に遅れてしまった。
下野の会社を出て地下鉄に乗り、無我夢中でフィエロに向かったが、到着した時は、身体の震えが止まらなかった。
大切な日に大失態をした。お店にも下野にも失礼なことをしてしまった。自分は重大なことをしてしまい取り返しがつかない、許されないだろうと、フィエロの入り口で足がすくんだ。
「今日は思ったより風が強かったですね。来るのは大変だったでしょう」
その入り口で、ゆっくりとした口調で話しかけられた。
話しかけてきた人は、バーシャミでウエイターをしていた人だ。フィエロでも働いているのだろう。制服を着ている彼は、春樹を真っ直ぐ見て、笑いかけてくれていた。
「えっ…風…?地下鉄で来たのでわかりません、それよりあの…遅くなって」
声が震えてしまうのを喉の奥で必死に抑えながら、その人に伝えた。
「風が強くて前に進めなかったんです。時間がかかって当然です。そんな中、来て頂いてありがとうございます。では、ご案内いたしますね」
何を言っているのかよくわからなかったが「こちらです」というので、その人の背中についていった。
食事が終わって帰る人たちとすれ違う。
足がもつれそうになる春樹に「大丈夫、私がご案内します。前だけを見てください。
待ってる人がすぐに見えますから」と、彼は頼もしい言葉をかけてくれたのを覚えている。
風が強くて前に進めないなんて、後から考えると酷い言い訳だなと思う。遅刻をした者がそんなこと言ったら、誰もが怒り出してしまう理由だ。
でも、それをあの人は笑いながら、あの時ジョークにもしてくれていた。
頼もしかった。大失態をした自分に、大きな味方がいるような感じだった。彼には本当に感謝している。彼のおかげで、あの後自分は素直になれた気もする。
すごいウエイターがフィエロにいるんだなと、帰りのタクシーの中で春樹は考えていると、車は自宅前に到着していた。隣には難しい顔をしている下野が一緒だ。
タクシーを下りて、春樹は自宅に下野を誘った。「ホットケーキ食べるだろ?」と、誘い文句をもう一度下野に向けて口にした。
下野の方を見ると、返事はせずまだ難しい顔をしたままだ。そんな顔をさせて悪かったなと春樹は思い笑ってしまった。
下野に『お前はずるい』と言ってしまったが、ずるいのは自分の方だと春樹は思っている。何年も下野を好きでいるのに、逃げたり、自分の気持ちをはぐらかしたりしている。そんな自分は、弱くてずるい。自分自身に腹も立つ。
ドアのカギを開けて玄関に入ると、左奥のキッチンに飲みかけのコーヒーマグが見えた。今朝は急いでいたので、そのままにしちゃったかと、マグを見ながら春樹は靴を脱ぎ部屋に上がり後ろを振り向いた。
「春ちゃん…俺、春ちゃんのこと好きだって言ったよね?」
後ろ手でドアを閉めながら玄関に入ってきた下野が言う。ここまで来てまだ何を言っているんだと、春樹は苛立ちを覚えた。
下野は玄関まで入ってきているが、まだ靴を履いたままでいる。それに玄関に突っ立って春樹を見ている。それも何だか春樹をイラつかせた。
自分自身にイラつくのか、下野の態度にイラつくのか、もうわからない。
だけど、もう行動する時だと思う。
行動を起こさないからイラつくんだ。
それに…わかっている。自分で行動を起こさないと先に進めないんだということも。
突っ立ってる下野の上着を引っ張り、抱き寄せ、春樹からキスをした。
好きな男がこんなに近くにいて、手を伸ばせば掴める距離にいる。それなのに、何故今まで行動を起こさなかったのか。キスをしながらそんなことを考えた。
くちゅっと音がした時には、立場を逆転された。見慣れた部屋が、くるっと一回転したようだった。
下野を乱暴に引き寄せ、春樹からキスを仕掛けたのに、あっという間に身体を反転させられ、春樹は下野の手により玄関の壁に身体を押し付けられてしまった。
やっぱり下野との体格の差は大きい。隙間なく押し付けられた下野の身体から身動きは取れない。それに、キスをされている唇を離してはくれない。
「んんっ、っん、…」
キスをしたまま両腕を下野に掴まれる。壁に押し付けられた身体を、下野にきつく抱きしめられる。
「好きだ…春ちゃん」
もつれるように部屋の中を移動して、ベットの上に倒された。
自分の顔の上には、愛おしい男が不安そうな顔のまま「春ちゃん…」と呼び、覗き込んでいる。あんな荒々しいキスをしたくせに、何に怯えているんだろうか。
だから春樹は下野の上着をまた手繰り寄せ、逞しい男の身体をきつく抱きしめた。
「寛人…キスがしたい」
「えっ…?」
「会えなかった分だけキスがしたいんだ」
そう春樹が言い終わらないうちに、びりびりとした音が耳に鳴り響くような、そんなキスをもう一度された。
さっきまでは不安な顔をしてたくせに、今はもう遠慮ないキスをしている。飲み込まれそうになってしまう。
「んん…はぁっ、あぁ…」
「脱がしていい?…いいの?」
遠慮がちな声ではあるが、キスと同じように手の動きには遠慮がない。春樹のスーツの上着もシャツも、下野の手によって剥ぎ取られていく。
「…いちいち確認するな。恥ずかしい」
「春ちゃん、俺…このまま止まんないよ?カッコ悪いかもしれないけど…」
「お前がカッコ悪かったことなんか、一度もない!」
「もう!春ちゃん!」
顔を押さえられながら、ガッツリとまたキスをされるから、もう唇も舌も痺れてきた。
ベッドの上で、ちぐはぐな会話をしていたら、二人共真っ裸になっていた。気がついたらシャツもパンツも剥ぎ取られている。
初めてだった。下野が春樹の身体中にキスをしていることが。首や肩、腕や胸。どこも優しく唇で触れるようにキスをする。
昔は抱き合うだけで、肌にキスをされたことはなかった。唇以外にキスをされるのがこんなに気持ちがいいことなんだと知る。
「ん、ふぅ…っん、」
春樹はされるがまま、下野のキスに合わせて口からは声が漏れてしまう。
「春ちゃん…好きだ。どうしようもなく好きなんだ。春ちゃんの全てが欲しい」
身体にも、唇にもキスをされ続け、身体に力が入らなくなった。二人のペニスからはダラダラと先走りが流れているのはわかっている。
「春ちゃん、一緒にしていい?」
言葉にならなくて頷くだけ頷くと、ゴリ…ゴリっと下野の下半身が合わさっていた。下野の大きな手で二人のペニスが擦られていくのを、目が逸らせなくなり見つめてしまう。
「寛人…後ろから…」
もうそんなことじゃ足りないんだ。
後ろからと口に出して言い、春樹は、ごろんと身体を横に倒し体勢を変えた。
あの日…暗闇で二人でしたことが忘れられない。下野に後ろから、熱いペニスを足の間に捩じ込まれたことを思い出す。
あれからずっとひとりで思い出している。もう何年も経っているのに、ついこの前のことのように思い出すことが出来る。
「春ちゃん…ここ、いいの?」
下野もあの日のことだとわかったようだ。先走りでヌルヌルとしたペニスが尻を撫でながら足の間にズブズブと入ってきた。
「ああっ、やぁぁ」
ひとりディルドで遊ぶ時とは違い、ものすごい質量を感じ、春樹は少し射精してしまった。
「春ちゃん…ちょっと…ダメかも。もたないかもしれない」
「だ、だめだ!ま、また、出ちゃう…やぁ、っ、ひ、寛人…でちゃうっ」
足の間に捩じ込んだペニスはグジュグジュと音を立てて抜き差しされた。下野の腰が激しく動いているのを感じる。
春樹のペニスの裏筋を、下野の巨根がゴリゴリと撫で付けている。さっき少し射精したのにそれよりも強烈な射精感が強まってきた。
「っ、やぁっ、で、でる」
「…っ、あっ、うっ」
二人の精子がシーツにビシャっと飛び散ったのがわかった。射精が続く中、愛しい男に後ろから抱きしめられた。
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