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第6話
『はい、こちらデリバリーフロウです。ご指名ですね、有難うございます。……大輔君を百二十分ですね、はい…、はい。十三時に○○ホテルですね。了解しました』
「ダイちゃん大人気やなぁ」
「コージだって指名入ってんじゃん。さっすがクリスマス?って感じだよね。あとみんなミニスカサンタ好きすぎでしょ」
「それな!みんなオプション付けるもんな」
『あ、オプションにミニスカサンタですね』
噂をすればなんとやらで、ちょうど話題が出てたところに電話番の声が聞こえて。待機室で待っていた嬢たちは、会話のタイミング的にもついつい笑ってしまっていた。
『はい、こちらデリバリーフロウです。ご指名ですね、ありがとうございます。…はい、諒太君を…百八十分ですね。はい、はい…』
「諒太も人気だよね〜……って…諒太?どしたの?」
ピンク色の髪をフワフワさせて、俺の顔を心配そうに覗き込む。当店売り上げ人気ナンバーワンの嬢である岩城大輔(イワキダイスケ)だ。
「ううん、ごめんね。なんでもない」
「なんや、リョウ体調悪いんか?」
オレンジ色のサラサラ髪がよく似合っている塩谷幸士(シオヤコウジ)も、俺の顔を覗き込む。
「なんでもないってば」
「ほんまに?……なんや自分元気ないで?」
……元気?
あるわけがない。
── それは次に会った時にさ、……しよ?
── うん。俺の方こそ、逢ってくれる?
「……うそつき」
口を尖らせてボソリと呟く。
そう、あれから深海氏は一度もお店に連絡をよこさなかった。
やっぱりあの時、強引にでもナマでヤッておけばよかったんだ。
ふーやの戯言に惑わされた己に腹が立つ。
『は?身請け?……アンタ何言ってんだ??』
電話番の荒げた声色に、待機室の嬢もザワつく。
「コージ、ミウケってなに?」
「俺も分からへん……ちょぉ待ち、スマホでググるわ、んーと……?」
【身請け(みう−け)】…遊女などの身代金や前借金などを代わって払い、その勤めから身を引かせる事。
「遊女って、俺らのこと?」
「多分そうじゃね?」
「誰か身売りされたん?」
室内がザワザワし始める。
身請けかぁ。
まあ、俺は自ら望んで嬢やってるから関係ないんだろうけど。
好きな人が知らない男たちに抱かれてるとしたら、普通は嫌だもんな。
ふーやは。……どうなんだろう?
俺と客のこと。
嫉妬してくれてたりするのかな?
──その前に連絡すらこないけどさ!
なんか考えてたら腹立ってきた……。
「諒太ぁ、指名入ったから呼ばれてるよ?俺と一緒の車だってさ」
岩城に呼ばれて我に返る。
「はぁい」
仕事道具の入ったバッグとコートを手にして、配送車へと向かう。
車内の後部座席にお互い座りつつ、今日も寒いね〜などと世間話を混ぜていると、車がゆっくりと発進し始めた。
「さっきのお客さん百八十分だって?諒太愛されてんね〜」
クリクリの大きな瞳で興味深そうに話しかけられる。
「岩城も予約満杯じゃん。大人気だよね」
「まぁね〜。クリボッチの人達にいわサンタが来撃するのだ〜〜……なんてネ」
軽くウインクされる。
岩城はとても愛嬌があって可愛らしい。そして時折り見せる妖艶な表情も人気のひとつなんだろう。
車は嬢たちを乗せて、静かに目的地へと向かって行く。
──俺たちのクリスマスが、今年もはじまった。
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