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第2話・闇の狩人。(3)
エイドリアンは実の父であるハデスから冥界を出る許可を得るとすぐさま人間界へと降り立った。
しかしそれは罠だったのだ。
すっかり逃げ出したと思ったはずの彼女は人間界でエイドリアンを待ち伏せていた。
そしてあろうことか、自分の腹を痛め、生んだ我が子であるエイドリアンを手に掛けた。
「漆黒の腰まである長い髪、すべてを見渡すかの如く光る鋭い眼光。そして美しい顔立ちに、たくましい身体からあふれ出んばかりの強大な魔力――。憎たらしいほどお前は王によく似ている」
だからこそ嫌いなのだと、彼女は甲高い声で罵り、下卑た笑いを浴びせた。
エイドリアンにとって死は恐ろしくもなんともなかった。
だからたとえ血液が消え失せ、身体が冷たくなったとしても容易に死を受け入れることができた。
だが、彼は死を拒絶した。
エイドリアンにとって大切な妹、ベネットの存在があったからだ。
母親エメロンと似た顔立ちをしていても内面に秘めた優しさはやや垂れ下がり気味の目尻を見ただけでもわかる。
彼女が笑うたび、両頬にへこんだえくぼがなんともチャーミングで、無邪気な彼女のことが気がかりだった。
だからエイドリアンは蝕みつつある死から抗った。
たとえその先に奴隷という存在が待ち受けていようとも構わないと思った。妹を見つけることさえできれば、ベネットを恐ろしい母親の手から救い出すことさえできれば自分はどうなっても構わなかった。
そして光の世界を統一しているウラノス神は抗うエイドリアンに目をつけた。
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