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第3話・本心。(1)

 エイドリアンという男は昔からそうだった。彼は母親エメロンに似た美しい波打つ髪を持ちながら、彼女とは似ても似つかない妹思いの優しい男性だった。そして誇り高い気品と強靭な強さは父親のハデス譲りでもある。それ故に彼の持ち前の優しい性格はかき消され、話してみないとなかなか本質が判らない。  実はこのユーイン。ベルセフォネの側近をしていた頃からエイドリアンに恋をしていた。彼をひと目見た時から心奪われ、気がつけば視線は常にエイドリアンを探していた。  だが、それはユーインだけではない。他の者も同じで、彼をひと目見た者は皆、美しく凛々しい彼に惹かれていた。  それを知らないのは本人だけだ。  エイドリアンは自分には無頓着で、況してや色恋沙汰には無関心だった。  そして自分に無頓着なのは今も昔も変わらない。なにせ彼は自分のエネルギーが枯渇しているというのにユーインの身体を気遣って血液を飲もうとしないのだから。  彼は自分自身に無頓着な分、妹のベネットに対する愛情は強い。彼の母親が自分にばかりうつつを抜かしているからだろう、エイドリアンは母親の分も妹の世話をやいていた。  そのおかげでエイドリアンは妹ベネットの傍にいることになり、今まで誰ひとり気づかれなかったエイドリアンへの恋心を、彼の妹ベネットに知られてしまった。  それからだ。ユーインはベネットとよく話すようになり、結果としてエイドリアンの隣にいることも多くなったのは――

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