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第3話・本心。(2)
だからこそ、エイドリアンは妹の友人である自分に、エメロンがハデスを裏切り、エイドリアンも彼女を追って下界へ向かうということを教えてくれた。
そしてユーインはベルセフォネの側近を退き、彼を追ってこの地までやって来たのだ。
きっとエイドリアンはすぐにベネットを見つけられる。近いうちに自分も彼と一緒に冥界へ帰れると信じて疑わなかった。
それがまさかこんな事態になるとは、ユーインも想像さえしていなかった。
エメロンは女性で、しかも息子であるエイドリアンはハデス王譲りの強力な魔力を持っていた。だから愚かな母親に屈する理由がないとユーインはそう確信していたのだ。
しかし、その考えは浅はかだった。
エメロンはユーインが思っていたよりもずっと卑怯で醜悪な女だったのだ。
彼女は娘のベネットを盾に、エイドリアンという刃から自分を守った。
エイドリアンは母親に殺され、そして彼はベネットを助けるために神と契約してヴァンパイアとなった。いったい誰がそんな結果を予想できただろう。ユーインが下界に降り、彼の変わり果てた姿を見た当初は衝撃に打ちのめされた。
彼はなぜひとりきりで冥界を発ったのかと、エイドリアンに対してどうしようもない怒りを感じ、そして彼をヴァンパイアにしたウラノス神の身勝手さに殺意すら覚えた。
だが、今は多少なりともこの結果に感謝している。
だって彼がこういう事態に成り得なければ、自分はけっしてエイドリアンに抱かれることはなかったから――。
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