57 / 92

第9話・密林の支配者。(1)

 エイドリアンとユーインの体力が回復した数日後、彼らは門番神によって地上界から冥界へと抜ける道を抜けた。  この冥界は別名『死者の国』とも呼ばれている。  その別名の由来は、世界各国で命を失った亡者の魂がやって来るからだ。そして彼らは天国へ行くかそれとも地獄に行くかの裁判を受け、転生するまでの期間をここで過ごす。  ユーインは暗黒に染まっている永遠に明けることがない夜の空を見上げ、これから成すべきことへの緊張と、そして故郷に帰ってきたという安堵が同時にあった。  だが、エイドリアンには安堵という言葉ほど無縁なものはないだろうとユーインは思った。  彼は裏切り者の母親を持つ身の上だ。当然冥府の国の住人には快く思われていない。  ちらりと横目で彼の表情を伺っても、やはり眉間の皺は深くなるばかりで男らしい眉は一向に下がる気配はない。  彼から放たれる緊張の気配がひしひしと伝わってきた。  目前にはラードーンがいる深々と緑に染まった密林がある。  ラードーンはガイア神の息子であり、冥界の中でもハデスと大差ない強大な魔力を持つテューポーンとエキドナの数いる子供の一人で、この密林の中枢部に生っている黄金の林檎を守っていた。  冥界へ行くにはまずは彼が守るここ――密林と、そして世界でもっとも大きな河であるステュクスを抜けなければならない。  彼らが立っているここは冥界といえどもまだほんの入口に過ぎず、冥王ハデスに会おうと思えばまだまだ先が長い。

ともだちにシェアしよう!