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第9話・密林の支配者。(2)

 エイドリアンの考えはこうだ。  事のあらましを父親ハデスに知らせ、その後どう動くかを考えようとここへやって来た。――のだが、ラードーンが素直にこの密林を通してくれるとも思わない。彼は林檎を守る事しか能がない。いたって単純な者だった。  しかし、その単純さも時によってはかなりややこしい存在にもなる。  ユーインは躊躇するものの、エイドリアンはこれから自分の身に降りかかるだろう出来事に戸惑いを億尾にも出さず、ハデスへ向かう一歩を踏み出した。  一瞬でもたじろいでしまったユーインは慌てて広い背中を追った。 『我が密林を抜けようとする愚か者は何者ぞ』  深い緑に覆われた根太い木の根っこが張り巡らされた地面はでこぼこした地形を作り、歩きにくいことこの上ない。ゆっくりと大股で歩を踏み出すふたりの頭上からおぞましい殺気を含んだ野太い声が響いた。  声はすれども姿は見えない。  エイドリアンは耳を澄まし、気配を感じ取るため視界を固定して感覚だけを頼りに神経を尖らせた。  ふいに背後から空気が流れるような気配を感じ取り、エイドリアンはちょうど自分の後ろにいたユーインを自分の方へと引っ張り込む。  ユーインが倒れ込むようにしてエイドリアンのたくましい腕の中に入った瞬間、背後に存在していた密林の木が大きな音を立てて崩れ落ちた。 『おのれ、余所者が! よくも儂の密林を壊しおったな!!』  声は怒りをあらわにした。  しかしそれは見当違いというものだ。

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