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第9話・密林の支配者。(3)
密林は自分の手で壊しただけで、エイドリアンはただ攻撃を避けただけにすぎない。
「聞け、ラードン!! この御方は冥府の王ハデスの第一子、エイドリアン王子! けっして余所者ではない!!」
ユーインはエイドリアンの胸から飛び出し、姿を見せないラードンに説得を試みる。
彼がそうしたのは冥界の入口で、しかも同胞に刃を向けるのは道理的ではないと思ったからと、無駄な血を流したくはないからだ。
しかし、彼のその説得も黄金の林檎を守るという任務を全うするしか頭にない愚か者には理解し難い。ユーインの必死な説得を鼻で笑い、軽く蹴散らすばかりだった。
「奴には何を言っても無駄だ。なにせ奴はこの密林を侵入者から守ることこそがこの世で最も重要な任務だと思っているからだ」
エイドリアンは剣を構えた。
その瞬間、強力な魔力が広大な密林を囲んだ。
それと同時に左方向から熱風を帯びた魔力がひとつの塊となって恐ろしい速さで迫ってくる。
エイドリアンとユーインはすぐさま天空へと高く飛び、その場を離れた――すると先ほどまでエイドリアンたちがいた場所では木々が崩れ、大きな轟音と砂埃が舞い、一気に視界が悪くなっていた。
説得を諦めたユーインは、ラードンと事を構えるため、糸を纏う。
しかし、エイドリアンは左の手を上げ、ユーインを制した。
エイドリアンは、ただでさえ大切なベネットを救い出すため自分に身体を捧げたというのに、冥界の同胞と戦い、これ以上の汚名をユーインに背負わせたくはないと思ったのだ。
冥界の住人から嫌悪されるのは裏切り者の息子というレッテルを貼られている自分だけで十分だ。
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