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第9話・密林の支配者。(4)

「エイドリアン、ぼくだって戦います」  そんなエイドリアンの配慮を知ったのか、ユーインは首を左右に振り、背中を向けている彼に自分も戦うと告げる。  だが、エイドリアンは首を縦に振ろうとはしなかった。 「ユーイン、お前は俺があの愚か者に負ける軟弱な男だとでも言いたいのか?」 「そうじゃない!!」  どうして彼はそんなことを言えるのだろう。  ユーインは常にエイドリアンに惚れ続けている。誰よりもエイドリアンを凛々しい人だと思っているのに……。  ユーインは声を大にしてそう言いたい気持ちを堪えた。 「ならば手を出すな」  そう言って振り返るエイドリアンをルビー色の瞳に映した時、ユーインの胸は大きく高鳴った。  彼は、これから同胞と一戦を交えようかというこの時に、常に下がっていた口角を上げ、笑っていたのだ。  それだけではない。鋭いダークブルーの眼光には星々が散りばめられた光さえ見える。  なんという雄々しい姿だろうか。  彼はこれからはじまる戦闘を、たしかに楽しんでいるようだった。  それはきっと、冥界の王子という強力な魔力を持つが故だろうか。  今までは人間界にいる弱小な悪魔としか戦っていなかったエイドリアンはおそらく、力の半分も使っていないだろう。  妹を救出するどころか母親さえも見つけられない中で、日々悶々と過ごすことが多かったエイドリアンにはストレスが溜まりすぎているのかもしれない。  エイドリアンの意思はユーインを庇うだけではなく、広大な密林を巨大な魔力で覆うラードーンとひと暴れしたいと思っているのだということも察知した。

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