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第9話・密林の支配者。(5)
エイドリアンが楽しそうにしているその光景を見ることはユーインにとっても嬉しいことだ。
彼の邪魔をしたいとは思わない。
それはきっと惚れた弱み。
それに、ラードーンは強力な魔力を持つ者だが、エイドリアンには敵わない。
彼はしなやかでそして力強い肉体を保持し、それに加えて恐ろしいほどの戦闘センスを持っていたからだ。
今まで幾人もの者たちが腕自慢のためエイドリアンに戦いを申し込み、そしてすべからくその者たちは彼の膝下に傅いた。
ユーインはもちろん彼の内面に惚れたのもあるが、彼が力強く気高い冥界の王子であるということもその理由のひとつにある。
ユーインが構えを解いたのを確認したエイドリアンはふたたびラードーンと戦うため戦場へと戻る。
それはエイドリアンが戻ってくるその時を待っていたかのように、密林を覆う魔力と同じくらいの巨体を晒した。
エイドリアンに向けて大地を震わすほどの哮りを放ち威嚇する。
そんなラードーンの姿は尾から上は関節で別れており、その先からは細長い蛇の首を一〇〇も連ねている。
全身は鋼の鱗を纏っていた。
頭部にはそれぞれ金色に輝くギラついた両の目が存在し、口はそんな目下まで裂けている。
それぞれの蛇の首が地響きをつくる咆哮をあげ、大きく口を開けたそこには鋭い歯が隙間なくぎっしりと列を成していた。開けっ放しの口から唾液が溢れるその姿は見るもおぞましい。
幾数もの首を持ち巨体なラードーンが、自分の身体の三分の一程にも満たないちっぽけなエイドリアンの姿をねめつけるように見据える。
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