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第9話・密林の支配者。(6)

 そんなふたつの影をユーインはただ見つめることしかできない。  エイドリアンは強い。  だからラードーンには負けない。  そう思ってはいても、目の前のラードーンを目にすると、万が一のこともある。そんなシーンを想像してしまえば怖気ずいてしまいそうになる。  ユーインは緊張感で喉へと上がってくる胃液を戻すため、ゴクリと唾を飲み込んだ。  対峙していた彼らは、まるで嚥下する音を聞いていたかのようにそれを合図に動いた。  巨大で細長いひとつの頭部が大きい口を開け、鋭い歯をむき出しにながらエイドリアン目掛けて突っ込む。  エイドリアンは軽快な身のこなしで宙に浮き、避けた。  だが、ラードーンはたかだか一度の回避で驚きはしない。  宙にいる彼を見逃さなかった。  また別の頭部が大口を開け、空中にいる無防備なエイドリアンを食い千切らんばかりの勢いで向かっていく。  だが、彼もまたラードーンが攻撃してくることを予測していた。  エイドリアンは動じることなく初めに攻撃を仕掛けてきた頭部を踏み台にして飛び上がり、さらに上空を舞う。  その姿はとても華麗で、傍から見ていたユーインを魅了していた。  ラードーンは攻撃を仕掛けるたびに踏み台にされ、空高く舞うエイドリアンに歯ぎしりする。  もしかすると自分の攻撃を避けるばかりの彼は、自分を弄んでいるようにも見えのかもしれない。  見事天空を舞うエイドリアンは、とうとうラードーンを真下に捉える。  エイドリアンは頃合だとばかりに剣を構え、刀身を横に斬る。たった一振りで強靱な突風が生まれた。

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