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第9話・密林の支配者。(7)
真空でできた鋭い刃はラードーンに向かって恐ろしい速さで突き進んでいく。
苛立ちを覚えていたラードーンの首元に凄まじい音を立てて命中した。
今まで誰にも傷ひとつ負わされたことがなかったラードーンは、ちっぽけな身体をした輩に翻弄され、傷を負わされたという屈辱感に苛まれた。
ラードーンは地響きを伴う怒りの砲声を上げる。
ラードーンの咆哮から空気が圧縮された覇気が生まれ、すべてを吹き飛ばさんとする突風が吹き荒れた。
大地が震える中、エイドリアンは身体をひねり、ラードーンから生まれた覇気を利用して木の枝に着地する。
今のラードーンの頭の中には愚弄されたという屈辱しか頭にない。
それは、密林にある黄金の林檎を守るという大切な使命を忘れるほどだった。だから彼はそれぞれの口を大きく開け、喉に魔力を溜め、紅蓮の炎を生み出した。生まれた紅蓮の炎で密林がどうなるかなど考えもしない。
ラードーンのひとつの首によって生み出された巨大な炎の玉が木の枝に悠々と立つエイドリアン目掛けて放たれる。
しかし、これも距離があるため彼に当たることはない。エイドリアンは余裕で次の木に移る。――が、その攻撃速度は徐々に縮まっていく……。
おかげで攻撃する隙がない。
エイドリアンは次々と放たれる炎を避けながら、それでもわずかな隙を狙って空を刃で横に薙ぎ、向かい来る頭部めがけて攻撃する。
その攻撃はたしかに利いているものの、だがラードーンの首は一〇〇も存在する。たとえエイドリアンの攻撃でひとつの首が両目を傷つけられ、地面に崩れ落ちたとしても次の首が彼を狙う。
『もう逃げ場はないぞ? どうする?』
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