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第6話・くだらない命乞い。(5)
彼らの本性を知っているエイドリアンにはとても愚かな行為だ。だから当然エイドリアンは耳を貸さない。
本来ならば――。
だが、今回だけは違った。
なにせエイドリアンとユーインは悪魔の生態系が崩れはじめていることを知っている。ここで悪魔の口から出た、《冥界を手に入れる計画》、《あの方》それらの単語がエイドリアンの手を止めさせた。
エイドリアンは無表情なまま、けれど地べたに這いつくばって命を乞う相手を射抜くように見下ろす。すると、生き残る術はしゃべることだと理解したらしい悪魔は、ただひたすら話し続けた。
「冥王ハデスの奥方だったあの方だ。名前は忘れた。その方に力を与えてもらった。人間界と冥界、手に入れないかと言われた。ハデス殺して――。ある方が冥界手にするため大きい戦、ある。あの女の力で俺たち強力になった」
悪魔が口にした、《冥王ハデスの奥方だったあの方》
それは妹を人質にとり、冥界から逃げ出した彼の実母――エメロンに他ならない。
彼女こそが今回の一件と関わりあること、そしてあろうことか冥界を手に入れるという身の程知らずな計画を立て、何者かと通じ画策していたのだ。
そういえばそうだ。
母親、エメロンがこの世界にやって来てから悪魔は活発化したのではないか。
ひとりでも多くの味方が欲しいウラノス神は、そうしてエイドリアンをヴァンパイアにする契約を交わした。
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