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第6話・くだらない命乞い。(7)
「ユーイン!!」
エイドリアンは、ユーインが身を挺して自分を守ったことに気がつき、すぐさまユーインの身体に突き刺さったままになっている刃を引っこ抜く。
血液は恐ろしい程勢いよく体外へと流れ、彼の赤い唇からは苦痛を訴える呻き声が放たれる。
エイドリアンは今も尚ユーイン腹から流れ続ける血液を食い止めるため、自らの身体に纏っていたシャツを脱ぎ、彼の負傷した傷口に押し当てた。
相当苦しいのだろう。
ユーインはふっくらとした唇を噛みしめ、目を閉ざしている。
こめかみには青白い血管を浮かべていた。
「馬鹿な!! なぜ前に出た! ベネットのたかが兄というだけだろう? お前がここまでする義務は何ひとつとしてないんだ!」
エイドリアンは、いかに自分が愚かな化け物なのかを罵りながらユーインの止血をする。
間もなくして周囲は喧騒の世界へと移り変わった。
アルテミスがつくり出した結界が消えはじめたのだ。
エイドリアンは深く傷ついたユーインが人々の好奇心の的にならないよう、彼の胴にきつくシャツを巻きつけ、抱え上げると足早にその場を去る。
途中、アルテミスとすれ違ったが今はそれどころではない。
冥界を手にするため、画策している輩がいること。
母親がその相手と密通しているかもしれないこと。
彼女には知る権利があるが、自分の腕の中にいる荒々しい呼吸を繰り返すユーインを見過ごすことなどできない。
エイドリアンは、目の前に佇む彼女に目もくれず、人目のないアパートへと急いだ。
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