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第9話・密林の支配者。(10)

 ひとつの首がエイドリアンから離れ、ユーインの肢体を舐めまわすように見つめてくる。  ユーインは、エイドリアンではない自分を見定めるような目を向けられ吐き気を覚えた。  腕を離せと身体をくねらせ、もがく。  だが、その姿さえも美しい。まるで自分を誘惑するために踊っているようにも見えた。  しなやかな肢体を晒すユーインの身体を舐めつけるように見つめる金の瞳はちろりと赤い舌を伸ばし、彼の肌を器用に舌先で触れた。  びくんと跳ねた身体はほんの一瞬色香を纏う。  ラードーンはもっと彼の乱れる姿を見てみたいと思った。肢体を舐める舌を両の胸にある赤く腫れた突起を弄った。  甘い刺激がユーインを襲う。  エイドリアンではないのに、それでも知ってしまった快楽に染まっていった……。  エイドリアンは、自分のものに手を出されたということが腹立たしかった。  他のヴァンパイアに手を出されまいと刻印を刻んだその行為がまさか仇になるとはつゆほどに思わなかったのだ。  ユーインは自分の下でのみ甘い声を発するべきだ。  エイドリアンは、いっそう歯ぎしりする。  グリップをきつく握り締めた。  そんな彼の行動をひとつの首が監視している。  エイドリアンがいつ攻撃をしてきてもいいようにと、ひとつの首は大きく口を開け、ユーインの背後に魔力の炎を生み出していた。 『攻撃を仕掛ければユーインを殺す』  ラードーンは暗にそう告げていた。

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