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第10話・虚ろ。(2)

 ユーインが肉棒を求めるたびに腰が揺れる。水中にいるおかげで生々しい水音が耳に響いた。  その音は自分がいっそう淫乱な存在だと思い知らしめてくる。  卑猥に感じる水音と、そして両胸に与えられた刺激で自身は痛いほど勃起していた。  けれどラードーンの愛撫で果てるなんてもってのほかだ。  もし果ててしまえば、誰よりも気高いあの人は二度と自分を抱いてくれないかもしれない。  快楽を与えてくれる相手なら誰にでも身体を開くのだと軽蔑し、相手にしてくれなくなるかもしれない。  初めて姿を見たその日から、エイドリアンにずっと恋していた。  彼の傍にいたい一身で冥界を出て、ようやく寄り添うことができたのにその努力も水の泡と化してしまう。 「いやだっ! エイドリアン、エイドリアン!!」  だからユーインはただ愛している彼の名をひたすら叫んで快楽を拒んだ。  すべてはエイドリアンの傍にいたいという願いのためだけに……。 「ユーイン、大丈夫だ。奴はもういない」  どうしようもない狂おしいほどの熱を必死に拒絶しする中、突如として聞き慣れた低音が聞こえた。  みぞおちに響くこの声は、聞き違える筈がない。  ユーインが恋心を抱く――エイドリアンのものだった。 「エイドリアン?」  涙で歪んだ視界を取り戻すため、瞬きすると、玉のような涙がこぼれ落ちる。  涙がいくらか落ち切った後、目の前に誰かがいるのが見えた。  凛々しい双眸が自分を見下ろしている。  それは醜い黄金の瞳ではなく、誇り高いダークブルーの瞳をしたその人だった。

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