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第10話・虚ろ。(3)

「エイドリアン……」  震える唇で彼の名を呼んでみる。  ユーインが誰の腕の中にいるのかを理解した瞬間、滅多に上がらない彼の口角がほんの少し上がったような気がした。  エイドリアンはたくましい腕でユーインを抱きかかえ浮かせた。ユーインは太腿が空気に晒されるのが判った。  どうやらここの水場は浅瀬らしい。  そこでユーインは、ここがあの忌まわしい密林ではないことを理解した。  ラードーンはいったいどうなったのだろう。  そういえば、意識が途切れる直前、何か大きな物が倒れる地響きを聞いた気がする。  それに耳を劈くような最後の断末魔。あれはけっしてエイドリアンのものではない。  きっとエイドリアンがラードーンを倒したのだ。  エイドリアンも無事だった。そして彼によって自分が救われたのだと理解した時、下肢で強調している自身がねっとりとした熱い何かに包まれたのを感じた。  あろうことか、彼は熱を孕んだユーイン自身を口に含んでいるではないか。  器用に胸の上にある飾りを撫でながら、根元から先端に向けて口を窄めて愛撫する。 「エイドリアン、エイドリアン!!」  ラードーンの自由に自分の肌を滑る舌が脳裏に一瞬過るものの、けれどこれは間違いなくエイドリアンから与えられるものなのだ。  あんないやらしい触れ方ではなく、率直に感じさせてくれる愛撫だと、ユーインは思った。  あの無愛想な薄い唇が自分のものを含んでいる。そう意識すると、ユーインの中にあった恐怖と不快な感覚は少しずつ萎んでいく。代わりに強力な甘い疼きに変わった。

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