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第11話・溝。(2)

 ユーインは自分の所有物であり、あの忌々しいラードーンのものではない。  彼こそ自分の腕の中で喘ぐべき存在なのだ。  ――いや、違う。  ユーインはいずれ妹の未来の花婿になる男だ。  彼はベネットのものであって、けっして自分のものではない。  すべてはエイドリアンに抱かれるたび美しく、そして艶やかな色香を放つようになったユーインがいるからだ。  そしてこの元凶を作ったのは紛れもなくエイドリアンにある。  自分は本物の化け物となり、血肉を渇望した。  目の前に現れたユーインの純潔を奪い、そして彼をこんな姿に変えてしまった。  未来ある美しい彼を穢してしまった。  ユーインにとってラードーンと同じ立場の怪物にすぎない。  そう思い知れば、ラードーンに襲われた時の、ユーインの大粒のあの涙が忘れられない。  ユーインは最愛の花嫁を救うため、エイドリアンへ自らの身体を贄として捧げた。  心の奥底では自分に抱かれる時もあんなふうに泣いているのだと思えばエイドリアンの口の中に苦いものが広がっていく。 「すまない」  無理矢理身体を奪ってしまった後悔。  飢えから逃げるために優しい彼を巻き込んでしまった愚かで弱い自分を呪う。  エイドリアンは耐え切れず、懺悔の言葉を吐き出した。  ――とはいえ、彼の最奥にいつまでも自分の白濁を沈ませておくわけにもいかない。  エイドリアンは二匹の雄に貫かれてしまった彼の緩みきった後孔に人差し指と中指を差し込み、心の中で深く謝罪しながら彼の中から異物を取り出した。

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