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第11話・溝。(6)

 それに生きた屍となってしまったエイドリアンにとって、珍しい宝石よりも懸命に命を燃やし、生きているユーインたちの方がずっと価値があると思っていた。  カロンはあれほど執着を見せていたユーインからすぐさま視線を外し、美しく輝く緋色の宝石に魅入った。  エイドリアンはカロンの骨ばかりが見える皺が入った両の手に宝石を乗せてやるとすぐさま無防備に寝入っているしなやかな身体を横抱きにして船に乗り込む。  カロンは同意のしるしとして灰色の袖の中へと宝石を忍ばせ、そして船を漕ぐための櫂を持ち、彼岸に向けて小舟を進めた。

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