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第13話・招かれざる客。(3)

 彼の声に反応したは伏せていた上体を起こし、ゆったりとした足取りで向かい来る。  三つの頭を持ち、獅子の胴体に竜の尾。蛇のたてがみを持つ巨体な犬。その者こそ冥界の番犬ケルベロスだ。  彼もやはりエイドリアンが倒した密林の支配者ラードーンと同様、テューポーンとエキドナの息子で、ハデスに仕えていた。  犬の首を持つケルベロスの三つの頭部はそれぞれ、を象徴し、死後に魂がめぐる順序を示す。  また、三つの頭部を持つしもべの口から出る唾液は猛毒植物から成るトリカブトが発生している。  そんな恐ろしい風体だから、面と向かってケルベロスと戦おうという愚か者はまずいない。怖いもの知らずな上に先を急ぐ冥王の息子ひとりを除いては――……。 「五年ぶりだな、俺もすっかりお前の好物を忘れていたんだ。無理もないか」  エイドリアンは目の前の三つの頭部を持つしもべに臆することなく話しかければ、ケルベロスは六つの目を同時に細め、彼の姿を足のつま先から頭部にかけてじっくりと目視した。 『王子か、久しいな。そうか、王子が相手ならラードーンはひとたまりもないだろう。なるほど、それでラードーンの魔力が一時期感じなくなったのに合点がいった。しばらくこの国を離れていたようだが、腕は鈍っていないようだな』  ケルベロスは一時的ではあってもラードーンの気配が突如として消えたことを感じ取り、刃を交えた相手が誰だったのかを理解した。

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