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第13話・招かれざる客。(4)
『密林の主ラードーンが倒されたと城中が大騒ぎだ』
ケルベロスはうんざりとした気配で言うなり、大きな口から上下左右に存在する犬歯を見せてニタリと笑った。
命を奪うまではしなくとも、血の繋がった兄弟が倒されたというのに冷静なのはいったいどういうわけか。
――いや、冷静なように見えて実は激怒している可能性もある。
エイドリアンは彼の心中を探るため、口を開いた。
「まさか、兄弟の敵をとるとでも言うんじゃないだろうな?」
『まさか! アレは自分の使命を反故した愚か者だ。自らの手で王に明け渡された密林を焼き払うなど言語道断。自業自得だろう』
ケルベロスは三つある首を振った。
どうやら彼はラードーンが黄金の林檎を守る役目を忘れ、自ら炎を噴いて焼き尽くしたことを知っているようだ。
相変わらず冥界の情報網はあらゆるところまで張り巡らされている。
それでなければ彷徨える死者が脱獄するのを防ぐことはまずできない。
ともすれば、エイドリアンがこの地に姿を現したこともこの国の王であるハデスの耳に届くのも時間の問題だ。
今に限ってはこの情報が早くハデスに届いて欲しいとエイドリアンは思った。
冥王ハデスという男の力量がまさかこんなところで再確認されようとはエイドリアン本人すらも思ってはおらず、それでも自分の母親は恐ろしい網をくぐり抜け地上に降りたことに畏怖の念を感じた。
やはり、母親ひとりでここを抜け出すことは不可能に近い。
彼女と密通した相手がここから逃げるのを手伝ったと考える方が辻褄が合う。
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