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第13話・招かれざる客。(5)

 ハデスに忠誠を誓う勢力と同じくらいの力を持つ何者かが密通相手に存在する。しかも、その密通相手の力は世界を乗っ取ろうとするほどの邪な考えの持ち主でもあるのだ。  そして人間界にいる悪魔を変えた強力な力を持ち得ている。いったい母親の密通相手とは何者なのだろうか。 「ならば話は早い。裏切り者エメロンの一件でこの国に来た。事は一刻を争う。ここを通せ」  世界を乗っ取ろうとする不穏な輩が密通相手かもしれないこと、ベネットを人質に取り、行動するエメロンのことを考えるとどうしても焦りを隠せないエイドリアンはケルベロスと正面切って向かい合う。 『それは土台無理な話だ。この城壁は我が主の砦。主の許可が出ない限り、ここを通すことはできない。たとえ、貴方が主のご子息様であったとしても……』  ケルベロスの言葉に苛立つものの、けれどここの門番は忠実な僕だ。  でなければ冥界を守ることなんて不可能だしあまりにも不用心すぎる。王の膝元ならこれくらいの守りがなければならないのもまた然り。 「やはり刃を交えなければならない、か」  こうなることはエイドリアン自身も知っていた。  だからこそ彼はユーインを安全そうな城壁の影に下ろし、たったひとりでケルベロスの前に現れたのだ。 「……ならば力づくでも押し通る」  エイドリアンは躊躇いなく鞘から刀身を引き抜くとグリップを握り、構えた。  それを見たケルベロスもまた前屈みになり、迎撃体勢をたてる。

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