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第13話・招かれざる客。(6)

 ケルベロスの最大の凶器は口から吐き出されるトリカブトの毒と、三つの頭部にある六つの鋭い犬歯だ。あの犬歯で噛み付かれ、傷口からトリカブトの毒を注ぎ込まれればいかに再生能力が高いヴァンパイアであってもひとたまりはない。  接近戦は不利だと考えたエイドリアンは、切っ先に魔力を溜め込むと幾度となく空を切り、斬撃を生み出す。  斬撃は鋭い鎌鼬(かまいたち)となり、二重三重と折り重なってケルベロスへと向かう。  だがケルベロスはただその場で前屈みになったまま逃げようともしない。彼は全身の毛を逆立て、それぞれ三つの口に魔力を溜め込み、大きくひと吠えした。  吠えた空音による魔力を乗せた振動はエイドリアンのかまいたちを止め、それどころか押し戻す。  エイドリアンは上方へと跳び、自分に跳ね返ってくる鎌鼬を避ける。  それとほぼ同時に彼が先ほどまでいた足場に鎌鼬が激突し、耳を劈くほどの轟音と砂埃が舞った。  エイドリアンの強力な鎌鼬を受けた地面は直径一メートルもの穴を作る。  それはエイドリアンの魔力と、それを押し戻したケルベロスの魔力の恐ろしさを物語っていた。  宙を舞うエイドリアンは視界が悪くなったのを利用して、そのまま地面にいるケルベロスへと刃を向けた。  この視界の悪さならいかに行動力と瞬発力に長けたケルベロスでも太刀打ちできないと、彼はそう考えたからである。  しかし、ケルベロスはエイドリアンのその攻撃さえも見抜いていた。  ひとつの頭は頭上からやって来るエイドリアンの魔力を感じ取り、鋭い犬歯で刃を受け止めた。

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