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第3話 ここはどこ、私はだれ(2)

「え、ええっと、ここは……」  混乱が深まってパニックを起こしそうになるのをなんとか踏みとどまり、とりあえず無難な感じに別の話題を振ってみた。もしかしたら、なにかの拍子に前後の記憶がスポンと抜け落ちているだけで、そこをうまく埋められれば問題が解決するかもしれないと思ったからだ。それでいろんなことに合点がいけば、なぁんだ、そういうことだったのか!的な流れになって一件落着、みたいな?  そう期待していたのだが。 「エストリーデの森だが」  あっさり返ってきた答えからは、なんの解決の糸口も見いだせなかった。 「えすとりーで? の森?」  今度はこちらが首をかしげてしまう。  はて。そんな名称にまったく心当たりがない気がするのは気のせいだろうか。聞きおぼえがないうえに、やっぱり見事な横文字。っていうか、そもそもがそれを口にした人間自体、まぶしいほどの銀髪碧眼。え、ここ外国? いつのまに? それかたまたま目覚めて最初に目にした人間が外国人で、耳にした単語が横文字だったってだけのこと?  マジで、なにがどうしてこうなった? 「そなた、ひょっとして自分の身になにが起こったか、理解しておらぬのか?」  まったくもってそのとおりである。  あえて口にせずとも、浮かべた愛想笑いで大体の事情を察したのだろう。グロスでも塗っているようにツヤツヤと発色のいい口唇(くちびる)から細い吐息が漏れた。 「まあ、それも致しかたのないことかもしれぬ。このような状況では、記憶も混乱するであろう」  このような状況というのがどのような状況なのかはわからんけども、とりあえずいろんなことが不明になっているので、おとなしく説明を受けることにした。

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